ストリート・メディカルでは、生活の質を改善するために日常生活における様々な接点(タッチポイント)を組み合わせて考えるという発想をします。従来の医療領域では、内科的・外科的治療による介入手法が中心に研究されてきたのに対し、ストリート・メディカルが扱うのは既存の投薬や外科的アプローチもあれば、衣・食・住など環境へのアプローチもあります。ITツールやセミナー、イベントを活用したり、娯楽を通じた働きかけが必要になるケースも出てくるでしょう。

痛みをイラスト化する

第3章では12の具体事例が取りあげられています。その内容のいくつかをワンフレーズで並べてみます。

「見える塩」で減塩の啓発キャンペーン
かっこよく病気と生きる。子どもが怖がらない注射キット
世界的な医学論文に掲載。アルツハイマー病の診断につながるゲーム
「痛み」をイラスト化。医療とコミュニケーションの融合で「言葉の壁」を超える
精子セルフチェック、男性が始める「妊活」が世界最大の広告祭でグランプリ

どんな取り組みなのか、いずれも好奇心を刺激しますね。ここでは「痛みのイラスト化」について少し詳しく説明します。

病院に行くとドクターに「どのような痛みなのか」を聞かれます。針でチクチク刺す痛み、ハンマーでなぐられたような痛み、締め付けられるような痛み……。いずれも、的確に伝えるのは案外難しいものです。痛みでパニックになっている場合もあります。ましてや、母国語以外で伝えなければならない状態なら大変です。この課題に注目したメルセデス・ベンツがタイの政府機関であるタイ健康増進財団(タイヘルス)と共同で、一目で分かる「痛みマーク」を作成したのです。象徴的な痛みを13のイラストにまとめました。ポイントはデザインがユニバーサル(世界共通)に理解できる点。著者は「私たちが日本語の通じないところに行った際もグラフィックが使えると安心だ。医療と広告が手を組むことによって、医療のコミュニケーションが進化したケースである」と評価しています。

横浜市立大に研究拠点

第4章では、2018年に本格的な活動開始した研究拠点が紹介されています。「ストリート・メディカルの社会実験」の場としてつくられたYCU―CDCです。

さて、我々が将来具現化を試みたいと考えているのは、ストリート・メディカルの社会実装である。したがって、コミュニケーション・デザインにおける研究のフレームは、より大きなビジョンとともにある。すなわち、次に示す「4iフレーム」と呼ばれる4段階の実証プロセスを通じて、YCU―CDCの考えるソリューションが当たり前のように社会に展開されていることが理想形と考えている。
(1)Imagine:未認識の解決課題を発見し、可能性を想像。
(2)Inspire:得られた課題を社会に提起。
(3)Involve:産業パートナーを巻き込んでソリューションを共創。
(4)Install:ソリューションが社会に実装。
 コミュニケーション・デザインの考え方に基づき、健康・医療における諸問題を解決し続けていくには、持続可能な体制を実現することが必須である。
(第4章 社会に新しい医療をインストールする 125~126ページ)
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コミュニケーションの重要性