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よりよい人生を実現するための医療について考える

よりよい人生を実現するための医療について考える

未来へ向かう医療の潮流を表す「ストリート・メディカル」という考え方が注目されている。病院や介護施設から一歩踏み出し実践の場を「ストリート=街」に移すことで、よりよい人生を実現するための医療だ。今回紹介する『治療では 遅すぎる。』は、先行事例の紹介を通じて、今の時代に求められる医療とは何なのかを考えさせてくれる。

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武部貴則氏

武部貴則氏

著者の武部貴則氏は再生医療研究の最先端で活躍している医師です。1986年生まれ、横浜市立大学医学部卒。横浜市立大学特別教授で、同大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC)のセンター長を務めています。東京医科歯科大学教授、シンシナティ小児病院オルガノイドセンター副センター長でもあります。2013年にiPS細胞から血管構造を持つヒト肝臓原基(胚芽)を作り出すことに世界で初めて成功しました。ミニ肝臓の大量製造でも成果を上げています。

注文を間違える料理店

横浜市立大学では、武部氏を中心に2018年、ストリート・メディカル(Street Medical)の世界初の研究拠点として医学部キャンパス内にYCU-CDCを設立しました。ストリート・メディカルとは、直訳すると「ストリート(街・通り)の医療」。「ストリート・ファッション」「ストリート・バスケ」「ストリート・ダンス」といった言い回しに似ていて、伝統的な活動や文化を身近な存在にするという意味が込められています。本書のベースとなっているプロジェクトです。

ストリート系の例を一つ挙げてみます。2017年、東京・六本木で行われた「注文をまちがえる料理店」という試みです。接客者がすべて認知症を抱える人というコンセプトで運営されたレストランで、顧客は健康な一般の市民。接客スタッフは楽器演奏などのエンターテインメントもあわせて提供し、来店客と認知症患者が交流しました。投薬や各種療法といった一般的な治療の枠にとらわれず、文字通りストリートに飛び出していったのです。

 ここで、ストリート・メディカルを定義してみよう。
ストリート・メディカルとは、扱うべき対象が「病(Desease)」から「人(Humanity)」にシフトすることを通じて、古典的な臨床医学の範囲を超えて、人を扱うことによって広がる拡張領域を指すものである。したがって、ストリート・メディカルという概念の導入によって、医療は無数の答えを用いる広大な実践領域へと発展するものと予測する。
(第2章 「人を観る医療」の挑戦 64~65ページ)

「病」から「人」へのシフトについて、少し補足してみます。人類は長い年月をかけて、「感染症」と「外傷」という2つのリスクに対応するために医療技術を進歩させてきました。これらは直接的に体にダメージを与え命の危険をもたらします。しかしここ数十年の間に、病の質が大きく変化してきました。広がってきた生活習慣病や心の病には、発症プロセスが長い期間にわたるという特徴があります。さらに、直ちに生命に関わることはないけれど生活に不自由をきたすというケースも増えています。本人の生活だけでなく、家族の幸せやコミュニティーの安定に大きな影響を与えてしまうのです。

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