コロナ時代の歯医者さん 米国は待合室も装備も一変

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/3
ナショナルジオグラフィック日本版

適切な対策をとれば、患者が歯医者で新型コロナウイルスに感染するリスクを最小限に抑えられると歯科医は主張する。それよりも、定期検診とクリーニングを先延ばしにすることで健康に悪影響が出ることの方がよほど危険であるという(PHOTOGRAPH BY LUCA SANTINI/CONTRASTO/REDUX)

もう何カ月も他人との接触を避けてきたが、先日右の奥歯が欠けてしまったので、勇気を奮い起こして歯医者に予約を入れた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全米で猛威を振るうなか、米バージニア州アレキサンドリアにある歯医者に足を踏み入れると、中は前回訪れたときとはまるで様子が変わっていた。受付にはアクリル板が置かれ、2個並んだペン立てには「消毒済み」と「使用済み」と書かれていた。そして、私を含め全員がマスクをしていた。

感染症が流行しているときの歯科治療には、特殊な危険が伴う。歯科医は、口を開けた患者に顔を近づけて長い時間治療を行わなければならない。「厳しい現実ですが、私たち歯科医は危険地帯で働いていると言わざるを得ません」と、ペンシルベニア大学歯学部長のマーク・ウルフ氏は言う。

だが適切な対策をとれば、患者が歯医者で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染するリスクを最小限に抑えられる。それよりも、定期検診とクリーニングを先延ばしにすることで、歯だけでなく体全体に悪影響が出ることの方がよほど危険であると歯科医たちは言う。たとえば、歯周病は心臓病などの慢性病に関連があるといわれている。

では、パンデミック(世界的な大流行)中でも患者に安心して受診してもらうために、米国の歯医者はどんな対策をとっているのか、専門家に聞いてみた。

新たなガイドラインの下で再開した歯医者

新型コロナウイルスは、呼吸や会話、咳などで口から出る飛沫に含まれている。その飛沫を吸い込んだり、ドアノブなど飛沫のついたものにふれた手で目や鼻、口を触ると、ウイルスが体内に入り込んで感染する。歯医者が使うドリルや超音波洗浄機から発生する細かいマイクロ飛沫にもウイルスは含まれる。しかも、マイクロ飛沫は数分から数時間空気中を浮遊することがある。

2020年3月、新型コロナウイルスに関する情報がまだ少なかったころ、米国歯科医師会(ADA)は、緊急でない歯科治療を延期するよう歯科医たちに要請した。感染の拡大を防ぐためだったが、深刻な供給不足に陥っていた個人防護具を最前線でウイルスと闘う病院へ回すためでもあった。

ADAは米疾病対策センター(CDC)と協力して、歯科診療を安全に再開させる対策を提言するために、専門家チームを結成した。そして5月、新たな安全対策を施した歯医者が、全米で診療を再開させた。

ADA会長のチャド・ゲハニ氏は、「患者にとって何が安全か、公衆衛生にとって何が最も重要かが、私たちの最優先課題です」と語る。

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