2020/10/3

歯科診療はどのように変わったか

感染症の流行が歯科診療に変化をもたらしたのは、これが初めてではない。ゲハニ氏によると、1980年代のエイズ流行がきっかけで採用された対策も多いという。

歯医者が常に手袋とマスクを着用するようになったのも、この時からだった。そして今は、新型コロナの流行によって「対策を一層強化し、感染症の拡大防止に向けた適切なガイドラインに従うようしっかり取り組んでいます」と、ゲハニ氏は言う。

診療前に、口内と上咽頭部を殺菌するため、患者に低濃度の過酸化水素またはヨウ素(ポビドンヨード)を含んだ水でうがいをしてもらう取り組みを始めた歯医者もある。診療中に、マイクロ飛沫とともに外に飛び出すウイルスの量を抑えるためだ。ただしゲハニ氏は、この方法で新型コロナウイルスの感染が抑えられる科学的証拠はないと断っている。「でも、やっておいて損はないです」

使用する器具にも気を配る。ウルフ氏の大学では、歯の洗浄に使う超音波機器の使用を中止している。振動が激しすぎて、「ウイルスをエアロゾル化させるには理想的な道具」なのだという。

治療によっては、ラバーダムを使用するのもいいだろう。ラバーダムとは、口全体を覆う薄いゴムのシートで、治療したい歯だけを露出させる器具だ。ウイルスを含んでいるかもしれない唾液が飛沫やマイクロ飛沫として外に飛び出すのを防ぐ効果がある。ただし、ヒル氏によると使うのは簡単ではない。「患者ともみ合うようにして装着しなければなりません」。また、強力な吸引機で助手に飛沫をしっかり吸い取ってもらうことも、対策のひとつだ。

「患者さんからは見えないところでも、歯医者はとても多くの対策をとっているんですよ」と、ヒル氏は付け加えた。たとえば、ヒル氏の医院では複数の診察室を順番に使いまわし、一回使用した診察室はしばらく休ませて、マイクロ飛沫が落ち着いてから次の患者を入れるようにしているという。また、換気をよくして、空気のよどみを作らないようにしているところもある。

感染者が多い地域における緊急性のない歯科診療の再開については、WHOとADAの意見が一致していないものの、歯科医たちによる努力は、全体的には報われているようだ。

ヒル氏は言う。「当院では今年5月初めから診療を再開していますが、現時点で歯科医から患者が新型コロナウイルスに感染したという報告はまだありません。ですから、きっと正しい対策をとっているのだろうと、私は感じています」

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年9月10日付]

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