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「あるはずのないもの」凝視 星・惑星形成巡り大発見

理化学研究所 主任研究員 坂井南美(2)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回転載するのは理化学研究所の坂井南美さんに星や惑星のはじまりについて聞くシリーズです。壁と思ってぶつかったら幸運だった、そんな楽しいエピソードから、日本に理系の女性研究者が少ない要因の分析まで、地上の話題も豊富。U22世代への熱い思いも放射されます。

◇  ◇  ◇

理化学研究所「坂井星・惑星形成研究室」の坂井南美主任研究員は、今、ぼくたちの周りにある様々な分子がどのように「進化」してきたのか、その起源を追いかける天文学者だ。この分野では、特に、生命につながる有機分子の起源はひとつの大きな関心事で、それらがどこから来たのか熱い議論が交わされてきた。

坂井さんは、研究キャリアの最初の時点で、まさにその議論に一石を投じた。坂井さんが、「原始星」、いわば、赤ちゃん星の周りに見出した「不飽和な炭素鎖分子」は、本来、そこにあるはずがないとされていた種類の有機分子だったからだ。

「星間分子雲には存在する有機分子のひとつではあるんですが、その後、原始星ができる時点ではなくなっているはずだとされていました。不飽和なものって反応性が非常に高いので、星が生まれる前の密度の低い分子雲の中ならともかく、原始星が出来る場所のように密度が上がってくると、すぐ他の分子とぶつかって反応しちゃいます。壊れて当然なので、ないと思われていたわけです」

しかし、坂井さんらの観測で、それらが実際にあると分かった。また、原始星の周りでそれらが反応し、なくなってしまったとしても、新たにそこで生成する仕組みがありうることも提唱できた。

その観測事実や再生成の仮説に対して、当初、他の研究者たちは決して好意的ではなかったそうだ。

「たとえば、地球からは同じ方向に見えるけれど手前にある別のものを見ているだけだろうとかいろいろ言われました。そこで、ほかの電波望遠鏡でも観測して、見えているものの温度がちょうど炭素鎖分子ができやすい温度と一致するだとか、ドップラー効果を確認して原始星の周りを回転しながら原始星方向へ落ちているようだと示したり、ひとつひとつ証拠を重ねていきました」

こういった論証に加えて、他の原始星周りでも炭素鎖分子を見つけたという報告もあったことから、批判的だった研究者たちも次第に理解を示すようになる。坂井さんも、一連の研究をまとめて博士論文とし、学位を取得した。

ただ、批判のうち、これまでの観測ではどうしても回答できないものがあり、坂井さん自身、その点について大いに気になっていた。

「原始星の周りには、ガスやチリからできている円盤というのがあって、さらにその外側にエンベロープと呼ばれる降着ガス雲があります。私たちの観測はそのエンベロープも含めた全体の化学組成を観測しただけで、原始星の近くだけを見たら違うのではないかというものです。その可能性は否定できなくて。というのも、分解能の問題があったからです。それまでの観測では、カメラの画像の1ピクセルに、太陽系の大きさの10倍から数10倍ぐらいの大きさの範囲を写しているみたいなもので、原始星の円盤とその周囲のエンベロープの区別がつきません」

坂井さんの最初の観測は、野辺山の45メートル電波望遠鏡で100時間を要したと紹介した。捉えたい宇宙からの電波が微弱すぎて、普通に観測するだけでは感度が足りなかったからだ。そこで、100時間分のデータを重ね合わせることで、ノイズに埋もれていたスペクトル線をくっきりと際立たせた。これは、カメラで暗がりを撮影する時に、長時間露光すると暗いところも見えてくるのとまったく同じ理屈だ。

一方、分解能は、いくら時間を使っても解決できない。望遠鏡の口径や観測する波長(周波数)にかかわるもので、同じ望遠鏡で同じ周波数帯を見る限り、分解能の上限は同じだ。

そこで登場するのが、チリのアタカマ砂漠に建設されてちょうど運用を開始するところだったALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)だ。ALMAは複数の電波望遠鏡(アンテナ)からなるいわゆる干渉計というタイプのもので、アンテナのひとつひとつは12メートル(54台)や7メートル(12台)と比較的小さい。しかし、それらを離して配置して、受信した電波をひとつの巨大な望遠鏡のものとして扱うことで、実質的な口径を大きく取ることができる。

2011年に試験運用が始まった時、坂井さんの提案も採択されて、2012年に観測が実現した。

「ALMAの分解能は、これまでの100倍以上なので、原始星やその周囲のガスの様子を分けて見ることができました。私たちとしては、外側のガスから、原始星の周りにできている円盤、つまり、太陽系の大きさのようなスケールのところまで、炭素鎖分子が届いているかどうかが見たいわけです。観測データを見て、予想通り炭素鎖分子がそこまで届いていると分かりました。私たちが主張していた通り、原始星の円盤の化学組成は、飽和したギ酸メチルのようなものだけではなく、炭素鎖分子のような不飽和な場合もあり、つまり多様だと言えたわけです。でも、それだけではなかったんです」

化学組成について追い求めようとした坂井さんたちは、ここで原始星の構造や運動といった物理的な側面に踏み込むことになる。

「たとえば、炭素鎖分子は、原始星から100天文単位(150億キロ程度。1天文単位は地球と太陽の距離)の外側で見つかるのに、それより内側には見当たらなかったんです。一方、一酸化硫黄(SO)という物質は、ちょうどその100天文単位のあたりで急に増えて、その内側にも見られます。これは、100天文単位のところで、何か化学的な変化が起きているということです。それで、こういった分子がどんな運動をしているのかドップラー効果を見ると、どうやら、そこが原始星の円盤の端だと考えるのが一番妥当だと分かったんです」

原始星の周りの降着円盤には、外からいろいろなものが原始星の周りを回転しながら落ちてくる。それはのちのちに惑星系に発展するもとになるものだから「原始惑星系円盤」などとも呼ばれる。さらにもっと遠くなって「エンベロープ」と呼ばれるようなガス雲の広がりに至るまで連続的にスムーズにつながっていると以前は考えられてきた。しかし、坂井さんたちが見出したのは、明確な区切りがあるということだ。

これはむしろ物理学的な説明ができるという。

「原始星の周りを回転しながら落ちてきたものは、どんどん落ちてきて回転半径が小さくなると、回転が速くなります。すると、遠心力が大きくなって、あるところから内側には落ちられずに、今度は、おっとっとっと、というふうに逃げていってしまうはずなんです。でも、実際にはそうならず、そこにとどまって円盤を形作ります。それはなぜかというと、後から次々とガスが降ってくるので、逃げようにも逃げられない状態になるからだと考えました」

この話を聞いた時、風呂の水を抜く時の排水口の周りの渦を思い出した。渦の中心に近いほど、つまり回転半径が小さいほど、回転が速くなるのは見た目に明らかだし、後から後から水が押し寄せるので、かりに遠心力で弾き飛ばされそうになっても逃げられないというのも同じだ(もっとも、排水口の渦の回転程度では、それほどの遠心力を生まないだろうから、あくまでもイメージとして)。

「逃げようにも逃げられないと何が起こるかというと、互いにぶつかって摩擦が起きて、温度と密度が上がります。そこで化学反応が起きて、化学組成が変化します。それが実は原始惑星系円盤の端だったというわけです。内側には安定した円盤があって、その円盤の端のところで化学組成が変化しているんです」

ここは坂井さんが作成した図表をみせてもらいつつ説明を受けた。

まず、原始星の重力と、落ちてくるガスの遠心力が釣り合う位置を「遠心力半径」と呼ぶ。しかし、実際には、落ちてくるガスの勢いがあるため、「遠心力半径」のさらに半分くらいまで入り込むことができて、その境界を坂井さんたちは「遠心力バリア」と呼んでいた。そして、まさにこの部分がすなわち、「円盤の端」に相当していて、化学組成が変化している部分なのだという。

また、「遠心力バリア」のあたりが、観測事実に基づいて分厚く描かれており、それも、実は大きな意味を持つ発見だったという。

「落ちてきたガスが遠心力に弾き飛ばされずにとどまって円盤を形成する仕組み自体、これまでの円盤形成の理論では、長年の謎だったんです。回転しながら落ちてきたガスの角運動量をどこかに捨ててあげないと、そこにとどまれないわけですから。でも、遠心力バリアの部分で摩擦が起き、衝突して温度が上がる中で、円盤に対して水平に落ちてきたガスのうちの一部が、垂直方面に逃げ出して、角運動量を持ち去っていると分かりました。円盤の一部が膨み、厚くなっていることも観測で確認できました」

物理学の法則として、角運動量は保存される。それをなんらかの形で捨てないと、滞留できない。従来は、原始星の周りに形成される磁場の影響でガスが円盤を作る仕組みなどが提唱されていたが、そういったことを前提にしなくても、非常にシンプルな説明ができることになった。こういった、物理学的なメカニズムが、化学組成について関心をもって観測したからこそ解明できたというのが面白い。

さて、ALMAの本格運用は2014年以降で、分解能はさらに5倍になった。そこで、坂井さんは円盤形成にかかわる成果を矢継ぎ早に報告している。その中でも、特筆すべきトピックは、今年(2019年)1月に、「Nature」誌で発表されたものだ。

「中心の原始星と、周囲の円盤の回転の傾きが違うことが分かったんです。これがなぜ注目されたかというと、今、系外惑星、太陽系の外の惑星の研究がさかんになって、多種多様な惑星系が発見されてきたからです。その中で、惑星が2つ3つそろって傾いているものなども見つかっているんです。従来の説明では、惑星ができてから他の何かの影響で傾く、つまり後天的にそうなったとされてきたんですが、惑星系ができている最中にすでに傾いていれば、最初からそうだったかもしれないじゃないですか。その点が、新しいと評価してもらえたんです」

ちなみに、坂井さんにこの話を聞いた翌月、2019年のノーベル物理学賞が発表され、系外惑星の観測の道を拓いた2人の天文学者、ミシェル・マイヨール博士、ディディエ・ケロー博士が受賞した。この分野が、実り豊かなもので、非常に注目されているということを示している。

ただ、坂井さんの研究について、ふと気になった。こういった惑星形成についての発見は素晴らしいけれど、坂井さんのもともとの関心からいうと、あくまで副産物のようなものであって、本来知りたい化学的な組成の進化とはまた別の話ではないだろうか。

「副産物といえば副産物かもしれません。望遠鏡の使用を申請する提案書には書いていない予想外のことですから。でも、関係ないかというと決してそんなことはないんです。だって、傾きが違ったら、真ん中の星からの光の当たり方が変わるじゃないですか。光の当たり方が変わると温度が変わる。そうすると化学組成も変わるんですよ。それもまた化学進化の一つのファクターですよ」

まさにそのとおりだ。

一見、寄り道に見えつつも(それにしても成果の大きな寄り道だが)、実は本道につながっている。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年11月に公開された記事を転載)

坂井南美(さかい なみ)
1980年、高知県生まれ。理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員。博士(理学)。2004年、早稲田大学理工学部物理学科を卒業。2008年、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了し、助教に就任。2015年、理化学研究所准主任研究員、2017年より現職。2009年に優れた博士論文を提出した研究者に贈られる井上研究奨励賞を、2013年に日本天文学会 研究奨励賞を受賞。2019年には文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「ナイスステップな研究者」に選ばれた。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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