天体にも生命のような進化ある? 星・惑星形成に迫る理化学研究所 主任研究員 坂井南美(1)

坂井さんは自らの研究について、こんなふうに説き起こした。

「みなさん、宇宙の研究と聞くと、ビッグバンですとか宇宙のはじまりの研究をイメージされる方が多いんです。でも、私の場合はそうじゃなくて、宇宙のはじまりというよりは、私たちの住んでいるこの太陽系が、宇宙の歴史の中でどういうふうにできてきたのか、つまり、太陽や惑星ができるはじまりの部分の研究をしているんです。原子から分子ができて、複雑な分子ができて、惑星の環境が作られていくという、私たちの世界の化学組成の上での起源が知りたいということでもあります」

私たちが住んでいるこの太陽系がどういうふうにできたのかを知りたい、と坂井さん

宇宙の研究、それも起源にかかわる研究には様々な観点があり、その中でもやはり人気があるのは、インフレーションやビッグバンといった宇宙自体のはじまりを問うものだ。本シリーズの中でも、ドイツ、マックス・プランク宇宙物理研究所の小松英一郎所長のインタビューを掲載したことがあるし、大きな書店に行けば、「宇宙のはじまり」をめぐる一般書をたくさん見つけることができるだろう。

一方で、輝く星々やその周りにできる惑星がどういうふうに形成されてくるかというのは、相対的にそれほど人気がある分野ではないという。もちろん、研究者はたくさんおり、誰もが重要な研究テーマだと認めているのだけれど、なぜか、日本での一般的な関心という意味で。

「本音は、宇宙のはじまりから全部理解したいんですが、それは自分一人でも、一世代でも、できることではないので、その中で一番知りたいのはどこだろうと思ったときに、私はこっちに惹きつけられたんです」

そんなふうに言って、笑う。

坂井さんの研究を知るために、まずは前提となる知識から始める。

「今、私たちは、宇宙に有機分子のような複雑なものがあることを当たり前のように語っていますよね。でも、20世紀の終わり頃までは、宇宙空間で化学進化して複雑な分子になるなんて、考えられていなかったんです。宇宙空間はほとんど真空ですから、分子と分子、原子と原子がぶつかる頻度も非常に少ないんです。地球上だと1秒間に数億回、1立方センチメートルの中でぶつかるんですが、宇宙空間だと数日から1年に1回くらいになってしまうので、複雑なものをつくろうにもつくれないと思われてきました。それが、1970年代、1980年代に、電波望遠鏡による星間分子の発見ラッシュというのがありまして、宇宙でもいろんな分子ができているんだと分かってきました」

電波天文学の発展をきっかけに、実は宇宙空間には様々な分子が存在していると分かってきた。20世紀末の段階で、百数十種がリストアップされており、それらの中には、一酸化炭素、水、アンモニア、シアン化水素など、比較的単純なものからはじまって、エタノールのように炭素原子を2つ以上持つやや複雑なものもあった。

宇宙空間の様々な分子を観測できる電波天文学の発展がまず前提にあったという(写真は川端裕人さん)

こういった分子が見つかったのは、宇宙空間にガスやチリが薄く集まってできている星間分子雲と呼ばれるものの中だ。そして、星間分子雲は、星々が生まれる場でもある。薄い「雲」の中に、なんらかの理由で密度が高くなった部分があると、そこが自らの重力で収縮しつつ、より多くの物質を引き寄せるようになり、やがて星の赤ちゃんともいえる原始星を形作る。そして、そういった原始星の中でも、とりわけ質量が大きなものや、銀河の中心のように高温で密度も高い激しい環境にあるものの周りから、複雑な分子が発見されるようになったのだという。

一方で、ぼくたちの太陽に相当するような比較的小さな原始星の周りでは、なかなか見つからず、そもそも複雑な分子を宇宙空間で作るためには何らかの激しい環境が必要なのではないか、という説も唱えられるようになった。いずれにせよ、天文学者にとって大きな謎だった。

「2003年、鍵になる論文の一つが出ました。フランスの研究チームが、へびつかい座にある赤ちゃん星、原始星の周りでギ酸メチル(酢酸の異性体)や、ジメチルエーテルという、ちょっと複雑な有機物をついに検出したんです。この原始星は、私たちの太陽に近い小ぶりのものでした。もしこれが本当なら、地球ができたときにも最初から有機物はあったんじゃないかっていう話が出てきたんです」

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