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天体にも生命のような進化ある? 星・惑星形成に迫る

理化学研究所 主任研究員 坂井南美(1)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回転載するのは理化学研究所の坂井南美さんに星や惑星のはじまりについて聞くシリーズです。壁と思ってぶつかったら幸運だった、そんな楽しいエピソードから、日本に理系の女性研究者が少ない要因の分析まで、地上の話題も豊富。U22世代への熱い思いも放射されます。

◇  ◇  ◇

地上の生命の系統樹を知るように、宇宙の星々の系統樹を理解したい。今、私たちの目の前にあるこの世界の由来にもつながる壮大な問いを胸に抱き、星や惑星の形成に関して大きな成果を次々と挙げている気鋭の研究者、坂井南美さんの研究室に行ってみた!(文 川端裕人、写真 内海裕之)

野外での遊び、たとえば、木登りや、生き物と戯れたりするのが好きな子どもがふと空を見上げて、宇宙に思いを馳せたとする。天体望遠鏡で月を観察し、それがまさに地球の外にある別の天体であると実感したり、ドーナッツのような土星の輪っかを見て心ときめいたりした後で、あらためて地上を見た時、ふと疑問が頭の中に浮かび上がる。目の前にある、この素敵な世界はどのような道筋をたどって出来たのだろう。木々の樹皮の暖かな感覚や、手を浸せばひんやりと感じる川の水、水辺や森ににぎわう生き物たちは、いかなる経緯でこのようにあるのだろう。そもそも、そんなことを考えている自分自身の体や思考は、何に由来するのだろう。

きっと、似たようなことを子ども時代に感じ、考え込んだことがある人は多いはずだ。その疑問を心にとどめたまま天文学を志し、力強く粘り強いアプローチで謎に迫る研究者と出会った。理化学研究所「坂井星・惑星形成研究室」という不思議な響きのチームを率いる、坂井南美主任研究員だ。

坂井さんは、これまでの研究歴において、優秀な博士論文に贈られる井上研究奨励賞(2009年)、日本天文学会研究奨励賞(2013年)、文科省の科学技術・学術政策研究所が選定する「ナイスステップな研究者」(2018年)などを次々に受賞し、高い評価を得てきた。

では、その研究内容はというと、端的には、宇宙の「化学進化」だ。

一般読者にとって、「化学」と「進化」の組み合わせには違和感があるかもしれない。でも、宇宙のはじまりにおいては、水素や、酸素、炭素といった元素がまずできたわけで、それらが、原子のままの状態から、単純な分子を形作り、もっと複雑な分子へと発展していったことを化学進化と呼んでいる。

そして、宇宙におけるそのような化学進化の道筋が、実は星の誕生過程や環境効果に影響されて「枝分かれ」して「進化」しているのではないか、ともいう。

「生命の進化って、環境の影響などを受けて、枝分かれしながら続いてきたわけですよね。私は、同じようなことが、宇宙、太陽系のようなものでも言えると思っています。何かしらのきっかけがあって、違った化学的性質の星や惑星が、枝分かれしていくんです。私たちの研究では、星ができる時に周りにあった有機分子の種類の違いを見るところから始まって、どんな環境でどんな組成の星ができるのか知ろうとしています」

つまり、地上の生命の系統樹を知るように、宇宙の星々の系統樹を理解したいということだ。それは、今、ぼくたちの目の前にある世界の由来を問うことでもあって、実に壮大な話である。

たっぷり話を伺ってきたので、順を追って紹介していこう。

埼玉県和光市にある理化学研究所の入り口には、同研究所の仁科加速器科学研究センターでの発見の結果、2015年に命名権を獲得した113番元素「ニホニウム」の碑がたてられていた。そこからさらに10分くらい構内を歩くと、「物質科学研究棟」という建物にたどり着く。それが「坂井星・惑星形成研究室」の居処だ。つまり日本でも屈指といえる理化学研究所の「物質科学」の本丸に天文学系の研究室があるという不思議なたたずまいだ。

ドアをくぐると、博士研究員や学生、秘書さんたちの席がある部屋があり、坂井さんの居室はさらにその奥だった。

坂井さんは自らの研究について、こんなふうに説き起こした。

「みなさん、宇宙の研究と聞くと、ビッグバンですとか宇宙のはじまりの研究をイメージされる方が多いんです。でも、私の場合はそうじゃなくて、宇宙のはじまりというよりは、私たちの住んでいるこの太陽系が、宇宙の歴史の中でどういうふうにできてきたのか、つまり、太陽や惑星ができるはじまりの部分の研究をしているんです。原子から分子ができて、複雑な分子ができて、惑星の環境が作られていくという、私たちの世界の化学組成の上での起源が知りたいということでもあります」

宇宙の研究、それも起源にかかわる研究には様々な観点があり、その中でもやはり人気があるのは、インフレーションやビッグバンといった宇宙自体のはじまりを問うものだ。本シリーズの中でも、ドイツ、マックス・プランク宇宙物理研究所の小松英一郎所長のインタビューを掲載したことがあるし、大きな書店に行けば、「宇宙のはじまり」をめぐる一般書をたくさん見つけることができるだろう。

一方で、輝く星々やその周りにできる惑星がどういうふうに形成されてくるかというのは、相対的にそれほど人気がある分野ではないという。もちろん、研究者はたくさんおり、誰もが重要な研究テーマだと認めているのだけれど、なぜか、日本での一般的な関心という意味で。

「本音は、宇宙のはじまりから全部理解したいんですが、それは自分一人でも、一世代でも、できることではないので、その中で一番知りたいのはどこだろうと思ったときに、私はこっちに惹きつけられたんです」

そんなふうに言って、笑う。

坂井さんの研究を知るために、まずは前提となる知識から始める。

「今、私たちは、宇宙に有機分子のような複雑なものがあることを当たり前のように語っていますよね。でも、20世紀の終わり頃までは、宇宙空間で化学進化して複雑な分子になるなんて、考えられていなかったんです。宇宙空間はほとんど真空ですから、分子と分子、原子と原子がぶつかる頻度も非常に少ないんです。地球上だと1秒間に数億回、1立方センチメートルの中でぶつかるんですが、宇宙空間だと数日から1年に1回くらいになってしまうので、複雑なものをつくろうにもつくれないと思われてきました。それが、1970年代、1980年代に、電波望遠鏡による星間分子の発見ラッシュというのがありまして、宇宙でもいろんな分子ができているんだと分かってきました」

電波天文学の発展をきっかけに、実は宇宙空間には様々な分子が存在していると分かってきた。20世紀末の段階で、百数十種がリストアップされており、それらの中には、一酸化炭素、水、アンモニア、シアン化水素など、比較的単純なものからはじまって、エタノールのように炭素原子を2つ以上持つやや複雑なものもあった。

こういった分子が見つかったのは、宇宙空間にガスやチリが薄く集まってできている星間分子雲と呼ばれるものの中だ。そして、星間分子雲は、星々が生まれる場でもある。薄い「雲」の中に、なんらかの理由で密度が高くなった部分があると、そこが自らの重力で収縮しつつ、より多くの物質を引き寄せるようになり、やがて星の赤ちゃんともいえる原始星を形作る。そして、そういった原始星の中でも、とりわけ質量が大きなものや、銀河の中心のように高温で密度も高い激しい環境にあるものの周りから、複雑な分子が発見されるようになったのだという。

一方で、ぼくたちの太陽に相当するような比較的小さな原始星の周りでは、なかなか見つからず、そもそも複雑な分子を宇宙空間で作るためには何らかの激しい環境が必要なのではないか、という説も唱えられるようになった。いずれにせよ、天文学者にとって大きな謎だった。

「2003年、鍵になる論文の一つが出ました。フランスの研究チームが、へびつかい座にある赤ちゃん星、原始星の周りでギ酸メチル(酢酸の異性体)や、ジメチルエーテルという、ちょっと複雑な有機物をついに検出したんです。この原始星は、私たちの太陽に近い小ぶりのものでした。もしこれが本当なら、地球ができたときにも最初から有機物はあったんじゃないかっていう話が出てきたんです」

宇宙の片隅の、肉眼では見えもしない原始星の観測から、一般の人が聞いたことがないような有機分子が見つかって、それによって、研究者たちのものの見方が変わった。今、生命のもとになっている有機物の起源が、太陽系ができる時よりもさかのぼる可能性が出てきたのである。そもそも、有機(英語では、オーガニック organic)という言葉自体が、生命活動を前提とした言葉だと考えると、生命よりも先に有機物ワールドのようなものがあったというのは、実に感慨深い。

坂井さんがこの領域の研究に参入するのはまさにこのタイミングだった。

「私が大学院に入った頃、ようやく原始星の周りの有機分子というのがどれだけ普遍的なのかという議論が始まって、その星以外にも同じような天体があるのか、つまり、二匹目のドジョウを探すのが、私の最初の研究テーマだったんです。それで、私が観測したのは、おうし座のL1527、太陽系から、137パーセク(およそ450光年)の距離にある、結構、近くの原始星です。おうし座って、わりとそういう星が誕生している場がたくさんあることで有名で、その中でも典型的な原始星を選びました。ところが、観測の結果は予想外のもので……」

それを一言であらわすなら、「あるはずのものがなくて、全然違うものが出てきてしまった」ということだ。

坂井さんは、観測の際、当然、先行研究で見いだされたギ酸メチルを探した。野辺山の45メートル電波望遠鏡の観測時間をなんと破格の100時間も使って、ギ酸メチルが発する固有の周波数のパターン、いわゆるスペクトル線を見出そうとしたのだが、それは空振りに終わった。坂井さんが真っ青になったことと、その後に続く大発見は、今ではワンセットの伝説的な逸話として語られている。

「ギ酸メチルは検出されていなくて、なぜだろうと議論する中で、データを見直していたら、あるべきところに立っているはずのスペクトル線がないかわりに、そのすぐ脇に別のものが1本立っていました。これは何だという話になって、一応、確認することにしました」

分子が出す固有の電磁波であるスペクトル線は、ある周波数だけピンと飛び出すピークとして見える。そして、ギ酸メチルだとこの周波数とこの周波数にこういった強度のピークが出るといったふうに決まっている。それは、宇宙でも地球上でも同じなので、既知の化学物質については、分子分光学という領域の研究者が実験室で詳しく調べてデータベースを作っている。天文学者は、観測したスペクトル線とデータベースとを照合することで、どんな物質が見えているのか確認することができる。

「既存のデータベースで見ると、その周波数には、星が誕生する場にないと思われていた分子しか該当するものがないんですよ。ちょっと信用できないですよね。もう一本、同じ分子に由来する別のスペクトル線があれば確信が持てるので、それを探しました。すると、すごく運がよかったんですけど、ほかの分子を探そうと思って観測しておいた別の周波数の範囲に、その分子が出す別のピークが見つかりました。2本あれば、もう、これは確実にこの分子だと言えて、それがスタートだったんですね」

ここで見つかったのは、「炭素鎖分子」と呼ばれる有機分子で、ギ酸メチルなどと違って自然には通常存在しない非常に反応性の高いものだ。中学、高校で学ぶように、炭素原子には「4本の腕」があって、それぞれに水素なり、ほかのものがくっつくことができる。しかし、坂井さんが見出した炭素鎖分子は、炭素の数に対してくっついている水素原子が少なく、つまりは他の原子や分子と反応しやすい。こういうものを「不飽和」な有機分子という。一方、先行して見つかったギ酸メチルなどはかなり飽和した有機分子の部類に入る。

坂井さんの発見は、原始星周りのガスの組成には、良く知られている有機分子が含まれているだけでなく、その種類は多様かもしれないと示唆しており、大いに議論を巻き起こした。坂井さんは、反論に応える形で、新たな観測事実を積み上げ、その過程で、単に宇宙における化学進化だけではなく、もっと大きな枠組みの研究へと導かれることになる。

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年11月に公開された記事を転載)

坂井南美(さかい なみ)
1980年、高知県生まれ。理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員。博士(理学)。2004年、早稲田大学理工学部物理学科を卒業。2008年、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了し、助教に就任。2015年、理化学研究所准主任研究員、2017年より現職。2009年に優れた博士論文を提出した研究者に贈られる井上研究奨励賞を、2013年に日本天文学会 研究奨励賞を受賞。2019年には文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「ナイスステップな研究者」に選ばれた。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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