天体にも生命のような進化ある? 星・惑星形成に迫る理化学研究所 主任研究員 坂井南美(1)

ナショナルジオグラフィック日本版

日本でも指折りの理化学研究所で研究室を主宰する坂井南美さん。2019年には文科省の「ナイスステップな研究者」に選定された。山中伸弥京都大学教授や天野浩名古屋大学教授もノーベル賞を受賞する前に選ばれている
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回転載するのは理化学研究所の坂井南美さんに星や惑星のはじまりについて聞くシリーズです。壁と思ってぶつかったら幸運だった、そんな楽しいエピソードから、日本に理系の女性研究者が少ない要因の分析まで、地上の話題も豊富。U22世代への熱い思いも放射されます。

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地上の生命の系統樹を知るように、宇宙の星々の系統樹を理解したい。今、私たちの目の前にあるこの世界の由来にもつながる壮大な問いを胸に抱き、星や惑星の形成に関して大きな成果を次々と挙げている気鋭の研究者、坂井南美さんの研究室に行ってみた!(文 川端裕人、写真 内海裕之)

野外での遊び、たとえば、木登りや、生き物と戯れたりするのが好きな子どもがふと空を見上げて、宇宙に思いを馳せたとする。天体望遠鏡で月を観察し、それがまさに地球の外にある別の天体であると実感したり、ドーナッツのような土星の輪っかを見て心ときめいたりした後で、あらためて地上を見た時、ふと疑問が頭の中に浮かび上がる。目の前にある、この素敵な世界はどのような道筋をたどって出来たのだろう。木々の樹皮の暖かな感覚や、手を浸せばひんやりと感じる川の水、水辺や森ににぎわう生き物たちは、いかなる経緯でこのようにあるのだろう。そもそも、そんなことを考えている自分自身の体や思考は、何に由来するのだろう。

きっと、似たようなことを子ども時代に感じ、考え込んだことがある人は多いはずだ。その疑問を心にとどめたまま天文学を志し、力強く粘り強いアプローチで謎に迫る研究者と出会った。理化学研究所「坂井星・惑星形成研究室」という不思議な響きのチームを率いる、坂井南美主任研究員だ。

坂井さんは、これまでの研究歴において、優秀な博士論文に贈られる井上研究奨励賞(2009年)、日本天文学会研究奨励賞(2013年)、文科省の科学技術・学術政策研究所が選定する「ナイスステップな研究者」(2018年)などを次々に受賞し、高い評価を得てきた。

では、その研究内容はというと、端的には、宇宙の「化学進化」だ。

一般読者にとって、「化学」と「進化」の組み合わせには違和感があるかもしれない。でも、宇宙のはじまりにおいては、水素や、酸素、炭素といった元素がまずできたわけで、それらが、原子のままの状態から、単純な分子を形作り、もっと複雑な分子へと発展していったことを化学進化と呼んでいる。

そして、宇宙におけるそのような化学進化の道筋が、実は星の誕生過程や環境効果に影響されて「枝分かれ」して「進化」しているのではないか、ともいう。

「生命の進化って、環境の影響などを受けて、枝分かれしながら続いてきたわけですよね。私は、同じようなことが、宇宙、太陽系のようなものでも言えると思っています。何かしらのきっかけがあって、違った化学的性質の星や惑星が、枝分かれしていくんです。私たちの研究では、星ができる時に周りにあった有機分子の種類の違いを見るところから始まって、どんな環境でどんな組成の星ができるのか知ろうとしています」

つまり、地上の生命の系統樹を知るように、宇宙の星々の系統樹を理解したいということだ。それは、今、ぼくたちの目の前にある世界の由来を問うことでもあって、実に壮大な話である。

たっぷり話を伺ってきたので、順を追って紹介していこう。

埼玉県和光市にある理化学研究所の入り口には、同研究所の仁科加速器科学研究センターでの発見の結果、2015年に命名権を獲得した113番元素「ニホニウム」の碑がたてられていた。そこからさらに10分くらい構内を歩くと、「物質科学研究棟」という建物にたどり着く。それが「坂井星・惑星形成研究室」の居処だ。つまり日本でも屈指といえる理化学研究所の「物質科学」の本丸に天文学系の研究室があるという不思議なたたずまいだ。

ドアをくぐると、博士研究員や学生、秘書さんたちの席がある部屋があり、坂井さんの居室はさらにその奥だった。

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