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特産品の海に浮かぶ飛行船 土浦ツェッペリンカレー

探訪!ご当地ブランド(5)

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NIKKEI STYLE

「そうだ、土浦へ行こう!」

コロナ禍の巣ごもり生活で、食生活もマンネリ化する中、キラリとひらめいた。

食欲がわかない時でも、カレーなら食べられるのが不思議だ。茨城県土浦市には「ツェッペリンカレー」なるものがある。北海道のスープカレー、岐阜県郡上市の奥美濃カレー、島根県海士町のサザエカレーなど、全国各地のカレー巡礼旅を続けて来たつもりだが、土浦ツェッペリンカレーには、いまだお目にかかっていない。常磐線沿線住民としてうかつだったと反省し、さっそく土浦通いを始めた。

土浦市は国内第2の湖、霞ケ浦に面する舟運、物流の要衝で、県下では水戸に次ぐ商都・城下町として栄えた歴史を持つ。隣接の阿見町と併せ、霞ケ浦海軍航空隊、予科練のまちとしても知られている。

海軍とカレーには切っても切れない縁がある。横須賀の「海軍カレー」が有名だが、大人数の料理を手軽に作れ、ビタミン、たんぱく質など栄養豊富なカレーは、かつて結核と同様、深刻な病だった「脚気(かっけ)」に効果があることが、海軍軍医・高木兼寛の手で明らかにされた。曜日感覚が薄れがちな洋上航海で、毎週金曜にカレーを食べる習慣は海軍の伝統で、今も海上自衛隊に引き継がれているようだ。

なぜ土浦で「ツェッペリンカレー」なのか。江戸時代から続く豪商の屋敷や蔵が並ぶ一角に、その答えがあった。土浦まちかど蔵「野村」の文庫蔵「土浦ツェッペリン伯号展示館」をのぞいてみると……。

展示資料には、1929年(昭和4年)、ドイツの大型飛行船「ツェッペリン伯号」(全長236.6m、乗員65人)が人類初の世界一周を成し遂げた際、最初の寄港地として8月19日夕、霞ケ浦海軍航空隊(現・陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地の一角)に降り立った、とある。上野―土浦間に臨時列車が走り、30万人の観衆が参集。「君はツェッペリンを見たか!」は当時の流行語にもなった。地元特産のジャガイモを使ったカレーを乗務員に振る舞った逸話も紹介されている。

商家「野村」のレンガ造りの喫茶店「蔵」で食べられるのが、土浦商工会議所女性会が考案したツェッペリンカレーだ。じっくり煮込んだ地元産豚肉、野菜のカレーの海に、飛行船型のライスが浮かび、揚げレンコンと細い昆布が添えてある。ひっそりと涼しい蔵の中で食べるカレーは、胃袋に優しく、滋養分が染みわたる。

どんな経緯でツェッペリンカレーが誕生したのだろう。土浦商工会議所を訪れ、総務部長の加賀美吉彦氏、同カレーの草創期から携わった稲葉豊実氏(中心市街地活性化協議会事務長)らに話を聞いた。

――飛行船が土浦に来た際、カレーを振る舞ったのがルーツですか。

「それも1つの要因です。当時、ドイツ人はジャガイモが好きだろうと考え、地元・右籾(みぎもみ)産のジャガイモを使った海軍カレーで歓迎したようです。今は土浦が生産量日本一を誇るレンコンや、地元で長年醸造するしょう油を使っていることなどを定義としています」

――1つの要因というと?

「実は、初めから『カレーのまち』を目指したわけではないんです。B級グルメでは既に富士宮焼きそば、横須賀の海軍カレー、宇都宮のギョーザなどが有名でしたが、土浦にはこれといった名物がなかった。そこで2004年、市などの呼びかけで学者や民間事業者、女性らが集まり議論。その結果、海軍にはカレーが付き物で、山本五十六元帥が市内の神龍寺に下宿し、暑気払いで激辛カレーを食べていたことも分かり、ツェッペリンをフラッグシップに、土浦産食材を使ったカレーを打ち出すことにしたのです」

――特に飛行船にはこだわらない。

「商工会議所では『土浦ツェッペリンカレー』を商標登録しましたが、飲食店だけでなくラーメン店やパン、菓子、居酒屋など、バラエティーを広げるため、『つちうら咖哩(カリー)物語』という認定制度も創設。2006年には全国のご当地カレーと地元店が競う『土浦カレーフェスティバル』を開催し、07年には投票でナンバーワンを決める『土浦C-1グランプリ』もスタートしました。Cはカレーの頭文字です。今や11月の2日間で6万~7万人が集まる秋の一大イベントに発展したんですが……」

言葉に詰まるのも無理はない。土浦では毎夏70万人が集まる、日本3大花火の1つ、土浦全国花火大会があり、かすみがうらマラソンも有名だ。コロナ禍で、今年で14回目となるはずだったC-1グランプリも、多くの大型イベントも中止になった。

正直、コロナ禍での取材は厄介だ。C-1グランプリで何度も優勝し、既に「殿堂」入りした1938年(昭和13年)創業の老舗「レストラン中台」に電話予約を入れ、夕刻に訪れた。土浦駅から徒歩7~8分。かつて花街が栄えた付近に、店はひっそりとたたずむ。

目的の「幻の飯沼牛とレンコンのビーフシチューカレー」を注文し、ビールを味わっていると、名物カレーはじめ、「コロナに勝つサンド」「コロナに勝つ重」など、様々なテークアウトメニューを受け取る客がひっきりなしにやって来る。

15分ほどたって配膳されたそれは、レンコンにカボチャ、ナス、リンゴ、ジャガイモ、ブロッコリー、パプリカ、タマネギなど地産地消のそろい踏み。キーマカレーと煮込んだ最高級の黒毛和牛「幻の飯沼牛」のスジや各部位肉は、新鮮な野菜の味覚と呼応し、至高のぜいたく感を奏でてくれた。

3代目のオーナーシェフ、中台義浩さんは語る。「祖父は日本郵船のシェフとして各国に駐在した経験を生かし、カツレツなどを出す洋食店を開いたのです。戦後は牛肉、しゃぶしゃぶの洋食店として有名になりました。次の目玉メニューを考えていた矢先に、希少な土浦ブランドの飯村牛を扱ってほしいという依頼があり、ちょうどそのタイミングでC-1グランプリが開かれたのでこのカレーを出すと、おいしいと評判になりました」

土浦城址(亀城公園)近くの中華店「福来軒」は、1953年創業の庶民的な店だ。ジャガイモたっぷりのキーマカレーに細かく刻んだレンコンをまぶした「ツェッペリンカレーコロッケ」がグランプリを何度か獲得。カレーコロッケを乗せたカレーライスや、レンコン揚げの乗ったラーメン、カレーラーメンも人気だ。

「つちうら咖哩物語」の事業者部会長を務める藤澤一志さんは、「中心商店街に何軒も提供店があって、食べ歩きが楽しめるといいんですけどね」と漏らす。「土浦にはかつては『小江戸』と呼ばれる川越と同様、江戸時代以来の商家がたくさんあったのに、寂れてしまって……」。コロナ禍の影響は?「コロッケは80%減ですよ」。屈託ない笑顔ながら、まちおこしに注ぐ目は真剣だ。

土浦駅から郊外のイオンモール行きのバスに乗り、さらに10分ほど歩いたところにある「火門拉麺(かもんらーめん)」の「カレーヌードル」は、やはり何度もグランプリに輝いた名店だ。残念ながら、「取引農家のレンコンがシーズンオフ」で、この日は揚げネギでの代用だったが、シャキッとしたレンコンの食感を想像しながらのカレーヌードルも悪くない。「カレーチーズ餃子」も芳醇(ほうじゅん)な味わいだ。「また、ぜひ来てください!」。店主・斉藤秀樹さんの温かい言葉を聞くと、再訪を誓わずにいられない。

亀城公園の真正面にある古民家カフェ「城藤茶店」。ここで「レンコンとひよこ豆のカレー」を食した後、オーナーの工藤祐治さんとしばし話し込んだ。青森県生まれ、仙台育ちで、まちづくり・都市計画が専門だった工藤さんは、土浦の風景や歴史、人情にほれ込み、海軍将校が住んだという民家をリノベーションした。

「つくば科学万博」(1985年)やつくばエクスプレス開業(2005年)で、土浦の景観も活気も変わった。筆者がよく利用した筑波山に向かう筑波鉄道(土浦―岩瀬間)は1987年に廃線となり、廃線跡はサイクリングロードに整備された。

一方で、駅ビルは商業機能とサイクリングの拠点が整備され、3月には星野リゾート初のサイクリスト向けホテルも開業した。「適度な人口規模と筑波山や霞ケ浦の自然、歴史がほどよく調和するいい街ですよ」と工藤さん。

カレーの多様なスパイス同様、土浦には様々な歴史の面影と味覚がたゆたっている。

(ジャーナリスト 嶋沢裕志)

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