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使う人が納得する製品が次々と登場

しかしここ5年ほどで遠近両用SCLの性能は飛躍的に高まった、と塩谷さんは言う。レンズの性能は、光学設計、素材、レンズの柔らかさなど複雑な要素で決まる。従来のレンズは、近くはよく見えても遠くの見え方についてはある程度の妥協が必要だったが、最近はレンズを作る際のコンピュータによる見え方のシミュレーション技術が進歩。それにより光学部のデザインを工夫することで、遠くの見え方の質をかなり維持しつつ、近くも見えるレンズが次々と登場しているという。

「かつて遠近両用レンズを使うのは、比較的高齢で活動範囲が狭くなった人で、『遠くの見え方を多少犠牲にしても近くが見えればいい』と妥協できる高齢者に限られていました。40~60代とまだ活動範囲が広く、自動車の運転やスポーツ、旅行などで遠くも見たいという人の要望にはなかなか応えられず、それも普及率が伸びない一因でしたが、最近は近くも遠くも見えるものが出てきました。そうした最近の製品には、遠くの見え方を損なわず近くの見え方を少しだけサポートするレンズが出ており、老眼の初期はもちろん、10代、20代でスマホなどの使いすぎによる眼精疲労で目の調節力を失ったいわゆる『スマホ老眼』にも使えるなど、適応のバリエーションが広がっています」(塩谷さん)

こうした最新のレンズ(図3)のことも知っていて、それも選択肢に入れて患者にアドバイスできる眼科医院では、遠近両用SCLを納得して使い始める人が増えているという。

自分に合った遠近両用SCLを選ぶコツ

ただ、最新の遠近両用SCLであっても、単焦点レンズに比べると、遠方の見え方の質がやはり多少劣るという。自分に合った製品を処方してもらうためには、同時視型の特徴をよく理解しておくことも必要だ。塩谷さんはいくつかのポイントを挙げる。図4にまとめた通りだが、なかでも重要なのは(1)の「自己判断で選ばず、処方経験が豊富な眼科を受診」することだ。

最近は通販で簡単に購入できるが、自己判断で自分に合うものを見つけるのは非常に難しく、例えば自分の近視用コンタクトレンズの度数が「マイナス3」だからと遠近両用レンズでも遠方用の度数が「マイナス3」のものを選んでも、遠近両用ではまず同じようには見えないという。また同時視型と一言で言っても、各メーカーでレンズの光学部のデザインに独自の工夫をしており、見え方はそれぞれ異なる。そのため、あるレンズが合わなくても別のレンズなら合うということもあり、多くの種類のレンズから適切なものを選ぶ必要がある。そのためにも、処方経験が豊富で最新の製品情報に通じた眼科を選ぶことが欠かせない。

塩谷さんによれば、例えば図3で挙げたような最新の製品情報を知っていて、そこまで視野に入れてアドバイスをしてくれるような眼科は、遠近両用SCLの情報収集に積極的だと判断できるという。

同じ処方を長期間維持できるメリットも

自分に合ったレンズを見つけられた場合、遠近両用SCLならではのメリットもある。遠近両用メガネの場合は、40代で作っても老視の進行に合わせて数年単位で再調整が必要になることも多いが、「脳で見る」遠近両用SCLの場合は、同じ処方で10年以上快適な生活を送れることも多いという。

なお、コンタクトレンズはオープン価格のため販売店によって価格は異なるが、通常のコンタクトレンズ(単焦点レンズ)に比べ遠近両用は3~5割高いことが多い。

(ライター 荒川直樹、イラスト 三弓素青)

[日経Gooday2020年9月1日付記事を再構成]

塩谷浩さん
しおや眼科(福島市)院長。医学博士。1985年福島県立医科大学卒業。90年同大学眼科学教室助手、92年しおや眼科開設。特殊コンタクトレンズ(強度乱視用レンズ、遠近両用レンズなど)の処方を専門的に行う。2018年より福島県立医科大学眼科臨床教授。

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