AI開発ビール、即日完売 4つの世代を色や味で表現
クラフトビールの「コエドビール」を製造・販売する協同商事(埼玉県川越市)とNECは、人工知能(AI)で過去の雑誌データからトレンドを分析し、20~50代の4つの世代ごとの時代に応じたクラフトビール「人生醸造craft」を開発した。
7月15日から協同商事のオンラインショップで4本ワンセットで1540円(税込み)で販売した結果、当初の2000セットは1日で完売。さらに追加の醸造・販売を決定し、7月23日から予約を受け付けた。出荷時期は9月下旬~10月中旬になる見通し。
NECはAIの可能性を探るため、「人と協調するAI」をテーマにさまざまな取り組みをしている。同社のAI技術「NEC the WISE」を生かし、17年には名作文学の読後感想文を分析してコーヒーの味わいに再現した「飲める文庫」を、18年には新聞記事の内容を分析して時代のムードを味覚で表現した「あの頃はCHOCOLATE」を開発。発売すると、どれも完売したほどの人気だった。
今回のクラフトビールは第3弾。酒類を選んだ理由は、NECの新入社員による「上司や先輩とのコミュニケーションをどうやって取ればよいのかな」というつぶやきだった。「若い人だけではなく、シニア層も同じ悩みを抱えている。そんな世代を超えたコミュニケーションを支援するために酒類が候補に上がった」と、同商品を企画したNEC IMC本部の志村典孝マネジャーは語る。世代間の相互理解に適した商品として、職場内の話題のきっかけ作りにしたいという。
クラフトビールに決めたのは、色や香り、味わいなどいろいろな表現ができるからだ。そこでクラフトビールの実績があり、先進的な取り組みをしていた協同商事に声をかけた。さらに小学館から、過去40年分の雑誌をデジタルデータで提供してもらった。分析対象とした雑誌は「CanCam」「Oggi」「Domani」「DIME」「BE-PAL」「Precious」「女性セブン」「週刊ポスト」だった。
パステル系は甘い、寒色系はドライ
クラフトビールは一般に色や香り、味の3つで商品の味わいを表現する。人生醸造craftでも、この3つを探るために雑誌データを分析した。
例えば40代向けのビールの場合、色は20代の頃と設定して20年前の雑誌データからトレンドの色を画像分析。香りは30代の頃と設定して10年前の雑誌データからトレンドとなるワードを分析している。味は現在と設定して雑誌データからファッションの画像分析する。それぞれの分析結果を基に協同商事が世代の特徴を捉え、ビールとして表現した。
「最も時間をかけたのは、何と何をどうひも付けて、色や香り、味を設計するかだった」とNEC IMC本部の橋本和泉主任は言う。例えば味は甘みやドライ、苦み、酸味の4つの指標で数値化。一方、スカートやパステル系の色は甘みとし、パンツや寒色系の色はドライにした。これをAIに学習させ、画像分析をした。
「人間にはできないコンセプトメークをAIが行ってくれた面白い取り組みだった。ビール職人には創作意欲のインスピレーションを、飲む人には世代間の相互理解のきっかけを提供できた」と協同商事の朝霧重治社長は言う。
4種類のビールのうち、最も苦労したのが「30代のビール」。ブルーは日頃使っているビール原料では出しにくい色だったからだ。選択肢が少ない中で、クチナシを使うことでブルーを表現。SNSでも話題になった。
(ライター 中村仁美)
[日経クロストレンド 2020年9月2日の記事を再構成]
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