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落語映像、演出どこまで必要? 異業種コラボで考えた

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

二十四節気の上では草に降りた露が白く光り始める「白露」も過ぎ、秋の気配がそこかしこから感じ取れるようになった。この時期の朝晩の風が柔らかくて好きだ。

今年の夏は何をしただろうかと思い返すと、前々回の記事でも書いた「マーケロボ」というMAツールのプロモーション落語作りが浮かんできた。8月の1カ月間丸々取り組んだことに加えて、自分で作った落語のはずなのに思い通りに演じることができず、撮影を一度中断してしまったという事実が、より印象深く今年の夏の記憶に刻み込まれることになった。

そもそもMAというのはマーケティングオートメーションの略で、マーケティングオートメーションとは、手作業で行われてきた見込み客へのアプローチやその分析を、デジタル技術を使って効率化することだ。行き当たりばったりの熱量勝負で行っていた営業活動に、マーケティング的なデータ分析の視点を加えることで、求めている相手へ、求められているサービスをより正確に届けることができるから、営業される側にとっても営業する側にとっても無駄がなく、気持ちよく商談が進められる効果がある。

と、大体の内容を説明できるくらいにはしっかり調べた。これまでなじみのなかったMAや、その上位概念であるデジタルトランスフォーメーションについて調べることに8月上旬を費やした。

啖呵を切るのにひと苦労

異業種とのコラボレーション企画で肝になるのは「落語らしさをどう担保するか」ということだと思っている。今回は「啖呵(たんか)」というダーっと立て板に水で感情を吐き出す話法を台本に取り入れることで落語らしさを出すことにしたけど、この啖呵に随分と苦しめられた。筆記試験的にセリフを暗記することはそこまで難しくないけど、それを早口言葉のようにスラスラ、しかも感情を込めて口に出そうと思ったら途端に難しくなる。啖呵を切っている最中、窓の向こうを飛んでいる鳥が視界に入るだけでも「あ、鳥だ」と認識してしまい、次の言葉が一瞬出てこなくなる。奇跡的に心を乱されずに進み「あと2行くらいで終わる!」と認識した瞬間に、次の言葉が出てこなくなる。改めて数えたら原稿用紙1枚ちょっとの556文字しかなかったけど、これを無意識でまくし立てられるところまで身体に染み込ませる作業に8月中旬を費やすことになった。

自分にとって特に勉強になったのは8月下旬に取り組んだ編集作業だ。高座の模様を映像化するときに、カット割りなど映像演出をどうするかというのは大きな問題だ。僕を含めて濃い落語ファンにとっては、基本的に映像演出は必要ないと思える。余計なことはせずに固定カメラ1台でただただ高座の様子を映してもらうだけで十分楽しめるのだ。一方で、落語になじみがない方にとってはそれだと退屈に見えてしまう。だから映像演出で刺激を強くする必要がある。

今回の場合は、古典落語じゃなくて商品プロモーション用の落語映像だから、落語に愛着がある人だけがターゲットというわけではない。となると、落語の美学を追い求めるよりは映像として多くの人が楽しめる演出を採用すべきだ。そう思ったから、ひとまず先方が思うままに編集してもらった。そして出来上がったサンプルには、しゃべった内容全てに字幕がつき、効果音が入り、専門用語などが出てくると画面上に補足情報が差し込まれ、これでもかというくらいにカット割りが多用された内容になっていた。

上方落語は路上から

一瞬落語マニアの自分が顔をのぞかせて「こんなの落語じゃない」と思ってしまった。でもよく考えると、そう頭ごなしに否定するのもおかしいと気づいた。そう言えば、座敷など室内での表現として始まった江戸落語と違い、大道芸のように路上での表現として始まった上方落語では、座布団の前に見台(けんだい)と呼ばれる机が置いてあって、演者はそれをたたいて音を出しながら噺(はなし)を進め、時には演目中に「ハメモノ」と呼ばれる三味線や太鼓が入ることがある。にぎやかな音を出して少しでも通行人の足を止めるための工夫だ。

Webでプロモーション映像を流すことは路上での表現に似ているのではないか。ネット空間上の通行人の足を止めて表現を見てもらう必要がある。そのためにカット割りを駆使したり、テロップを入れたり、にぎやかな演出で興味を引くのは上方落語の始まりと相似形だ。そう考えるともろもろの映像演出はあってしかるべきなのだ。

それでも、映像演出を使い過ぎると、あるところから落語と呼べなくなってしまうラインが存在するのも間違いない。そんな行き過ぎた演出を取り除く作業は、自分にとっての「落語の定義」を明確にする作業と同じだった。おかげでまた落語に対する理解が深まったし、高座を映像化する時の方向性も定まった。

一つだけ大きな気づきを書くと「落語家は高座上でアナログの映像編集を行っている」ということ。マクラと呼ばれる冒頭の雑談部分から急に噺に入る瞬間や、八五郎から隠居さんに役を切り替える瞬間。落語家は首の向きや発話方法を変えることで、映像のカット割りと同じ効果を身体一つで生み出している。

そんな高座模様を映像化する時、ディレクターは「落語家のアナログな映像編集」に合わせるように「デジタルでの映像編集」を行いがちだ。マクラから噺に入った瞬間にカメラアングルをスイッチする。八五郎から隠居さんに役が変わった瞬間に映像を切り替える。そんなふうに同じタイミングでカット割りを行うと、落語家によるアナログな工夫は埋もれてしまう。実はその瞬間にこそ落語家独特の技術が潜んでいるのだから、カット割りは原則として落語家のアナログな映像編集点の前後で行うべきなのだ。

この夏を費やしたマーケロボとの案件は、僕にとっては夏休みの自由研究みたいなものだった。異業種とのコラボレーションは、自分の中で「当たり前」と信じて疑っていなかったことについて改めて考える契機になるのだ。

立川吉笑
 本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。
立川談笑、らくご「虎の穴」 記事一覧はこちら

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