アルコールは免疫力を下げる…。酒好きの人々にとって非常に気になる研究結果を、前回このコラムで紹介した。免疫学を専門とする帝京大学特任教授の安部良さんによると、アルコールは人間の免疫システムに直接的に悪影響を及ぼすだけでなく、さまざまな病気を誘発することによる“二次的”な影響を与え、そちらのほうがより深刻である可能性があるという。酒ジャーナリストの葉石かおりが、対策を詳しく聞いた。
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アルコールは免疫力を下げる。
巷(ちまた)で言われてきたこの一件。
「単なるウワサであってほしい」と思っていたが、前回の記事(「強い酒ほどリスク大! アルコールは免疫力を下げる」)において、悲しいかな、真実であることが判明した。
私たちのカラダには、ウイルスをはじめとする病原体から身を守る、非常によくできた免疫のシステムが備わっている。自然バリア、自然免疫、獲得免疫という3段階で構成され、それぞれのステージでさまざまな免疫細胞が働き、病原体を排除するのだが、どの段階においてもアルコールは直接的に悪影響を及ぼすという。
例えば、のどがチリチリするようなアルコール度数の高い酒は、自然バリアであるのどの粘膜を傷つけ、免疫力を低下させてしまう。そして、自然免疫で活躍する、病原体を食べてくれるマクロファージは、アルコールによって機能が低下したり混乱したりする。さらに、獲得免疫で働くT細胞やB細胞などのリンパ球がアルコールから何らかの影響を受けるという動物実験の研究もあるという。
免疫は3段階

だが恐ろしいことに、「アルコールによる免疫への影響はこれだけで終わらない」と話すのは、帝京大学戦略的イノベーション研究センターの特任教授で、免疫学を専門とする安部良さん。このような直接的な影響だけでなく、「アルコールはさまざまな疾病につながり、それによる二次的な免疫への影響のほうがより深刻である可能性もある」というのだ。
引き続き安部さんにお話をうかがっていく。
飲酒からの生活習慣病や肝機能低下のほうがコワイ
先生、アルコールが免疫システムに直接的に悪影響を及ぼすだけでなく、二次的にも免疫力を下げてしまう、とはいったいどういうことなのでしょうか……?
「前回、お話したように、自然バリアをはじめとする免疫システムにアルコールが影響を及ぼすことは事実です。しかしながら、それよりも、もっと影響が大きい可能性があるのは、アルコールを飲むことによる二次的な弊害なのです。分かりやすく言うと、アルコールの慢性的な飲み過ぎ、おつまみの食べ過ぎによって、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の罹患(りかん)リスクが上がったり、肝機能が低下したりすることが、免疫にも悪影響を及ぼすということです」(安部さん)
確かに、酒を飲み過ぎたとき、アルコールが免疫システムに直接的に悪影響を及ぼしたとしても、それは一時的なもので、二日酔いもよくなっていけば、次第に免疫システムのほうも回復していくのかもしれない。それに対して、長年の飲酒により生活習慣病になってしまったら、今度は慢性的に免疫力を低下させることにつながる。
アルコールが免疫に及ぼす“二次的”な影響

このコラムで幾度となく言及しているように、アルコールの飲み過ぎは糖尿病、高血圧、動脈硬化、肝臓の機能低下、がんなどを誘発する。こうした病気に罹患している人は免疫力が低く、新型コロナウイルス感染症が拡大する今この状況において、リスクに直面していると言われている。ではいったい、どのような仕組みでこうした病気が免疫に影響を及ぼすのだろう?