スタバが新型店 JINSと組み「働く人の集中スペース」
スターバックス コーヒー ジャパン(東京・品川)は7月30日、東京・銀座に新業態店舗「スターバックス コーヒー CIRCLES 銀座店」をオープンした。眼鏡メーカー・ジンズ(JINS)と提携し、「最高の集中体験」を目指す空間「Think Lab」を設けた。その空間デザインは、オフィス改革を考える企業の参考になりそうだ。
「スターバックス コーヒー CIRCLES 銀座店」のコンセプトは、「はたらく人のための『夢中になれる場所』」。1人で集中して考えられるスペースや、人とのコミュニケーションを活発にして、アイデアを共有しながら刺激し合うスペースなど、目的やワークスタイルに応じて、「Co-Work(コワーク)」と「Solo-Work(ソロワーク)」を選択ができる店舗空間になっている。
2階の「SMART LOUNGE」には、オンラインミーティングに適したブース席やコワーキング向けのテーブル席が用意されている。半個室のブース席は4席あり、パーティションで囲われているため、電話やオンラインミーティングも周囲を気にせず利用できる。40分単位で予約できる。
コワーキングスペースは、電源のあるカウンター席やディスカッション向きのビッグテーブル、移動可能、組み合わせ自由なテーブル席など多彩な客席を備えている。
ここまでは、他のコワーキングスペースやシェアオフィスなどでも一般的に見られるバリエーションだが、この店舗には「最高の集中体験」を提供するという、ソロワークを極めた究極のパーソナル空間「Think Lab」が用意されている。SMART LOUNGEからガラス越しに垣間見ることができるが、SMART LOUNGE側のワイワイガヤガヤとした雰囲気からは隔絶された、緊張感さえ漂う空間だ。中に入ってみよう。
室温から観葉植物まで科学的にコントロール
入り口は奥が暗がりになったゲートで、ここから別の空間が始まることを体感させるしつらえだ。その奥にある自動ドアは予約した人だけが解錠できる。予約/解錠/決済は専用のスマホアプリで一括して行う。
一歩中に入ると会話は禁止。室温や湿度、照明から、目に入る植物の量、環境音、オリジナルアロマまで、さまざまな環境要素を科学的に研究し、その知見によってコントロールすることで集中しやすい環境をつくり出している。一人ひとりのブースは集中するのに最適な広さに設計され、空間全体も、誰とも目線が合わず、他人の動きが気にならない動線設計がされている。
Think Labはもともと、眼鏡メーカーJINSの一事業としてスタートした。なぜJINSは空間づくりに乗り出したのだろうか。そのきっかけは2015年に発売した「JINS MEME(ミーム)」という眼鏡型ウエアラブルデバイスだった。JINS MEMEは加速度センサー、ジャイロセンサー、さらに機種によっては3点式眼電位センサーを搭載している。これによって心と体の状態をリアルタイムに把握でき、データを分析することでさまざまな分野で利用できる。
例えば、疲労や眠気を感知し、安全運転をサポートするアプリや、ランニング中の体の無駄な動きやブレを発見し、フォームの修正をサポートするアプリなど、既にさまざまなアプリが開発されている。集中度を測定できるアプリもその一つだ。
「目の動き、まばたき、姿勢などを分析して、今どれだけ集中しているかを判定する。これによって生産性の一部を見える化することができる」と、Think Lab取締役事業統括の井上一鷹氏は言う。しかし、そうしてデータを取ってみると、「JINSの本社が一番集中できていないという驚愕(きょうがく)の事実が判明した」と井上氏は笑う。
データが取れるのであれば、どうやったら集中できる場所をつくれるのかという研究が進められる。そこで17年12月、自社内に集中しやすいワークスペースとしてつくったのがThink Labの始まりだった。当初は事業化するつもりはなかったものの、多くの企業が見学に来るようになり、「自分の会社にもこういうスペースをつくってほしい」という要望が多かったことから、18年ごろからBtoBのワークスペースの設計事業を始めた。
縁側的な機能の重要性
「新型コロナ以前から、テレワークを推進するのは国の方針であり、個人向けにも、コワーキングスペースのようなコミュニケーションを主体としたスペースが増えてきた。しかし1人で集中できる場所は少ないし、ヒアリングをしてみるとニーズもあったので、BtoC向けの事業化に向けて19年にThink Labを別会社化した」(井上氏)
一方、スターバックス コーヒー ジャパン(以下、スターバックス)とJINSは同じ敷地内に併設出店するという店舗展開を16年に始め、現在、そうした形の店舗は11店舗に上る。JINSで眼鏡を購入し、眼鏡が出来上がるまでの待ち時間にスターバックスを利用したり、来店頻度の高いスターバックスの顧客がJINSでショールーミングをしたりするなど、互いに相乗効果が高いことが分かったからだ。
「そうして協力関係を積み重ねてきて、単に隣り合わせに出店するだけでなく、一緒に新しい顧客体験を提供できるような、もう一歩踏み込んだ店舗開発ができないだろうかという機運が盛り上がっていた」とスターバックス コーヒー ジャパン経営企画本部戦略部部長の福島巨之氏は振り返る。そうした中で、BtoC向けの事業を始めるThink Labとスターバックスが、「一緒に、新しい場所づくりにトライしようというプロジェクトが19年2月にスタートした」(福島氏)。
「会社にずっといなければいけない時代は終わった。副業を持つ人も増えるだろう。これからのワーキングスペースには働き方の自由度を上げ、選択肢を増やすことが求められる」と福島氏は言う。プライベートと仕事、本業と副業を行き来し、気持ちを切り替えるためには、空間の多様性が必要になる。その点、「この店にはプライベートと仕事モードの"縁側"的なものがある。開店してみて、その重要性に気づいた」と福島氏。究極の集中環境の手前の緩和した空間が縁側として機能し、集中環境への出入りをしやすくしているというのだ。
「縁側機能をもっと明確に意識して、意図的に実装することによって、色々な交流をつくり出したり流れを変えたりできると思っている」(福島氏)
(デザインジャーナリスト 笹田克彦、写真提供 スターバックス コーヒー ジャパン)
[日経クロストレンド 2020年9月2日の記事を再構成]
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