コロナ禍のため初のリモート開催となった2020年の「国際生物学オリンピック(生物学五輪)」。世界の高校生らが競う舞台で金メダルを獲得した末松万宙(すえまつ・まひろ)さん(栄光学園高3年)は、19年の化学五輪でも「金」に輝いた科学五輪2冠のサイエンスアスリートだ。8月の試験直後は「結構きついものがあったが面白かった」と話した末松さんは見事なゴールを迎えたが、本人は科学の魅力を「ゴールがなく、ずっと続けられる」ことだと語る。
【2020年国際科学五輪の開催状況や現時点での受賞者は末尾に】
――生物学五輪の金メダル獲得はどこで知りましたか。
「今年はオンラインでの発表だったので、時間に合わせて自宅のパソコンで確認しました。ひとりで見たのですが、すぐ家族に報告しました。とくにうれしかったのは、19年の生物学五輪に出場した同じ学校の同期から『おめでとう』と言ってもらえたこと。『先輩』としてアドバイスをもらっていましたから」
――化学の次に生物学の五輪に挑んだ理由は。
「化学に並行して生物学も勉強していたので、その延長で挑戦しました。生物は化学の知識が使えるところが結構あるのと、僕は数学も好きで計算が得意なので、そこは有利だったかなと思います」
――19年化学五輪はパリが会場でした。今回のリモート大会は何が違いますか。
「大会全体でみると、やっぱり現地で他国の代表と交流できないのが最も大きな違いです。それでも今回はリモートで共同研究する国際交流プロジェクトが用意されていて、僕は『ゲノム編集』がテーマのチームに加わることになりました。(10月末にまとめる成果を)完成度の高いものにするのはもちろんですが、やはり海外の生徒と交流するのが一番楽しみです」
――化学五輪を含め、どんな準備をしましたか。学校の試験勉強との両立は大変だったのでは。
「理科や数学は、普段から(授業とは別に)自分で先取りして学んでいるので、苦になることはありません。(五輪の前年度にある)国内予選に向けては、高校の参考書や問題集など大学受験と重なる内容に取り組み、本番直前はネット上で見られる過去問を解いて復習する、それを繰り返しました」
学習は時間ではなく内容
――学習の際に心掛けていることは。
「きょうは何時間勉強しよう、とは考えないようにしています。時間を決めると、その時間を消費すればいいやと、だらけてしまう。きょうはこの問題を終わらせようと、時間ベースではなく、内容ベースで計画を立てるようにしています。結局は何をやったのかということが重要なので」
――化学や生物学に興味をもったきっかけは。
「はっきりこれというのは覚えていなくて、やっぱり勉強する過程で好きになっていった感じです。小学校時代から理科や算数の規則性みたいなところにひかれていて、それが世界のどこでも通用するのが興味深いと思っていました。一定の法則や再現性があるのがいいなあ、と」
「化学は中学入試の受験勉強で、より面白く感じるようになり、それで中学では物理研究部の環境化学班に入ることにしました」
――どんな小学生でしたか。
「今もそんなに変わらないんですけど、外で活発に遊ぶような子どもではなくて、室内で本を読んだり、勉強したり、そんな感じです。弟は野球をやっていて、父も練習につきあっているのですが、僕はやりたいと思ったことが全くないんですよ」
「物心ついたときには読書の習慣があったので、それは両親のおかげと思っています。小学生のころは図鑑や学術書よりも、小説ばっかり読んでいました。一番好きだったのは『ハリー・ポッター』シリーズで、中学になってからも読み返しました。重松清さんの小説も好きで、当時の僕と同じくらいの年齢の少年を描いた『きよしこ』に共感し、それをきっかけにはまりました。『流星ワゴン』も気に入った作品のひとつです」

――当時は「文系」ですか。
「勉強についての興味で言えば、やはり理系です。読書は勉強の一環ではなく、それと切り離された趣味みたいなものととらえています」
――ご両親から「勉強しなさい」と言われたことは。
「ほとんどないです。放任主義というか、あまり口出しせず、自由にやらせてくれる感じです。塾に通うよう勧めてくれるなど(成長のための)機会をつくってくれることは何回かあったと思います」
――気分転換には何を。スマホなどを使う電子ゲームを楽しむことは。
「親が録画しているテレビドラマやバラエティー番組を見たり、本を読んだりでしょうか。ゲームはやらないです。はっきり『やりたくない』ということではなく、そもそも(ゲーム機が)家になく、あまりやったことがないので、やりたいという気持ちが起きません。スマホは高2から持つようになりましたが、それまでガラケーでした」