ブラックホールの衝突・合体確認 浮かぶ新たな謎

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/9/28

想定外のブラックホール

太陽の85倍の質量のブラックホールが「ありえない」理由は、恒星の死についての理論と関係がある。

もともと恒星は、バランスのとれた天体だ。自分自身の重力によって収縮しようとする一方、内部の核融合反応で発生した光が外に出ようとする力が恒星を外に押し戻している。

しかし、質量の大きい恒星の中心部はときに非常に高温になり、このバランスを崩してしまうことがある。光子と呼ばれる光の粒子が十分なエネルギーを得ると、電子と陽電子(電子の反粒子)の対になる。この変化により、恒星の中心部の圧力が一時的に低下し、収縮して高温になるのだ。

現在の理論では、恒星の質量が太陽質量の約60~130倍である場合、収縮と加熱により核融合反応が暴走して対不安定型(ついふあんていがた)超新星爆発が起こると予想されている。このタイプの爆発が起こると、恒星は完全に破壊されてしまい、ブラックホールを形成することはできない。

しかし不思議なことに、今回衝突したブラックホールのうち大きい方の質量は「対不安定型超新星爆発を起こすと予想される範囲内にあります」とベリー氏は言う。つまり、1つの恒星の爆発によって、こうしたブラックホールが形成されるはずがないのだ。

「太陽の52~133倍の質量のブラックホールが見つかったら、それは1つの星の死体ではありません」と、ブラックホールの専門家である米エール大学の理論天体物理学者プリヤムバダ・ナタラジャン氏は語る。氏は今回の研究には参加していない。「ブラックホールがこの質量になるしくみはいくつもあることを自然は教えてくれています」

2段階の合体?

LIGO-Virgoチームが科学誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に発表した別の論文では、今回のブラックホールの合体と、その元となった奇妙なブラックホールの形成過程について、いくつかのシナリオが検証されている。最も有望そうな仮説は、合体したブラックホールのうち少なくとも1つが、小さな2つのブラックホールの合体によって形成されたというものだ。

米ペンシルベニア州立大学の天体物理学者スタイン・シグルドソン氏は、今回の研究には参加していないが、「私が気に入っているのはこのシナリオです」と言う。

ナタラジャン氏は別の考えをもっている。彼女が2014年に学術誌「サイエンス」に発表した論文によると、初期の宇宙では、小さなブラックホールがガスに包まれた星団のまわりをランダムに動き回りながら大量のガスをのみ込むことで、みるみるうちに成長する可能性があるという。この仮説にもとづいて計算を行ったナタラジャン氏は、ちょうどいい星団があれば、太陽質量の約50倍と75倍のブラックホールのペアが誕生し、それらが合体する可能性があるとしている。

「ですから私は非常にワクワクしています!」と彼女は言う。

科学者たちは、GW190521の検出をきっかけに多くの理論研究が行われるに違いないが、その謎を解くためには、LIGOとVirgoが同様の衝突をほかにも検出する必要があると言う。「1回しか観測できなければ、たまたま良い条件が揃ったのだろうということで片付けられてしまいます」とシグルドソン氏。「何回か観測されれば、モデルの構築が始まります」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年9月5日付]

ナショジオメルマガ
注目記事
ナショジオメルマガ