ブラックホールの衝突・合体確認 浮かぶ新たな謎

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/9/28
ナショナルジオグラフィック日本版

今にも衝突しようとする一対のブラックホールの想像図(ILLUSTRATION BY MARK MYERS, ARC CENTRE OF EXCELLENCE FOR GRAVITATIONAL WAVE DISCOVERY (OZGRAV))

今から70億年以上前、2つの巨大なブラックホールがお互いのまわりを周り、やがて衝突して合体した。この激しい衝突により、時空のゆがみが波となって宇宙に広がっていった。重力波である。

2019年5月21日の早朝、はるか彼方で発生した重力波が地球に到達し、米国の「LIGO」とイタリアの「Virgo」という2つの重力波観測所でとらえられた。天文学者たちがその信号を分析したところ、これまで検出されたなかで最大の衝突と、理論上ありえないブラックホールについて、手がかりが得られた。

「GW190521」と名付けられたこの重力波は、途方もない規模の衝突によって発生した。研究者の見積もりによると、それぞれ太陽の66倍と85倍の質量をもつ2つのブラックホールがお互いのまわりを回転したあとに合体し、太陽の142倍の質量のブラックホールを新たに形成したという。

20年9月2日付で科学誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に発表された論文によると、今回の合体は、重力波をきっかけに発見された事象としてはこれまでで最大規模のものである。合体するブラックホールは、一瞬のうちに、太陽を構成する原子に含まれる全エネルギーの約8倍のエネルギーを重力波の形で放出した。このエネルギー量は、毎秒1000兆個以上の原爆を138億年間(つまり宇宙の年齢と同じだけの時間)爆発させるのとほぼ同じである。

「おそらく、私たちがこの宇宙で知っているなかで最大の爆発です」と、米カリフォルニア工科大学の天文学者マシュー・グラハム氏は言う。氏はLIGOやVirgoチームのメンバーではない。

今回検出されたブラックホール合体は、いくつかの点で、科学者たちを興奮させている。一つは、合体でできたブラックホールが、私たちがまだ観測できていなかった不可解な穴を埋める存在だったこと。太陽質量の数十倍の「恒星質量ブラックホール」や、太陽質量の数百万~数十億倍の「超大質量ブラックホール」はこれまでの観測で見つかっていたが、太陽質量の100~10万倍の「中間質量ブラックホール」は見つかっていなかった。今回の合体でできたブラックホールの質量は太陽質量の約142倍で、初めて発見された中間質量ブラックホールとなった。

「これで決着がつきました。中間質量ブラックホールは実在するのです」と、LIGOチームに所属する米ノースウェスタン大学の物理学者クリストファー・ベリー氏は言う。

しかし、ベリー氏らがより強い関心を寄せているのは、衝突によってできた新しいブラックホールではなく、最初の2つのブラックホールのうちの大きい方、すなわち太陽質量の約85倍のブラックホールだ。

「衝撃的です。この質量のブラックホールは理論的には存在しないことになっているからです」とベリー氏。

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