乃木坂46の梅澤美波 求められることを一番にやりたい
『映像研には手を出すな!』インタビュー(3)
乃木坂46の3人がメインキャラクターを演じた実写版『映像研には手を出すな!』。前々回の「乃木坂46の齋藤飛鳥 『映像研』で恥じらい取り払えた」、前回の「乃木坂46の山下美月 芝居が楽しいとの思いが強まった」に引き続き、梅澤美波に話を聞いた。
乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』、『七つの大罪 The STAGE』(共に2018年)に出演し、舞台経験が豊富な梅澤美波。論理的で興味があるのはお金儲けという金森さやかを演じた『映像研には手を出すな!』は、ドラマと映画という映像作品に初めて本格的に挑む経験となった。
「今まで舞台で演じてきた作品にも原作はありましたが、現実にはありえないファンタジーだったので、その世界観に身を任せていました。でも、コミックを読んでみて、『映像研』は学園が舞台だからリアルな高校感を出さないといけないなって。そのうえで、この作品の特徴である妄想が動き出すシーンをどう演じるかが、難関になりそうだなと感じました。
私が演じる金森はお金儲けが大好きで、人と話すときは表情も声のトーンもあまり変わらない、ちょっと機械的な演技をイメージしていたんです。でも、台本を読んでみたら、実写にしかない3人のやりとりのシーンが結構あって、人間味も出していったほうがいいのかなと思いました。
"金森らしさ"に一番悩んだのは、体調を崩して寝込んでしまっているときに、浅草とツバメがビン牛乳を持ってお見舞いに来てくれて、2人が帰った後にメッセージカードを読むシーンです。最初は、金森はそのメモを見て温かい気持ちにはなったんだろうけど、やっぱり表情には出さないだろうなと演じてみたんです。でも、(英勉)監督から、『もうちょっとここは微笑んでもいいかもね』とアドバイスをもらって、原作はこうだからという殻を破っていいんだなと、自分のなかで意識が切り替わりました。
そこからは、生徒会メンバーと長ゼリフで言い合うシーンで、金森が得意な理屈で劣勢になってしまったとき、いつもの淡々とした態度との差をしっかりつけようかとか、自由に思った通りに演じていきました。日常では絶対にすることのない鋭い目つきや、荒い言葉遣いを人に向けるのも楽しかったですね(笑)。何も恥ずかしいものなんてなかったし、すべてをさらけ出す感じでやっていたので、いろいろな人になれる演技の楽しさを改めて感じました」
「難しかったのは、やっぱり妄想のシーン。例えばVFXで表現された大きなロボットを見上げるところでは、スタッフさんがここにこういうロボットがいるという資料を見せてくれたんですけど、きっと実際そこにあったら、想像よりももっとインパクトは大きいんだろうなって。だから、自分が今思っているよりも上をいくリアクションにしないといけないと考えました。
それに、自分1人だけではなく、数十人が同じものを見ているみたいな状況が多かったので、驚くタイミングとかをみんなで合わせるのに苦労しました。でも3人のシーンは、日頃一緒に乃木坂46で活動しているだけあって、慣れていくのは早かったと思います」
乃木坂46から出演している3人のなかでは最も演技経験が豊富だが、3期生の梅澤に対して浅草役の齋藤飛鳥は1期生。劇中では金森が浅草を思い切りひっぱたくシーンもある。
どの現場の経験でも、3つの柱すべてに生かせる
「あのシーンは、クランクインしてまだ1週間もたっていないぐらいのときに撮影があったんですが、やっぱり思い切りたたけなくて。飛鳥さんは『力いっぱいやってくれて大丈夫』と言ってくれるんですが、結構NGを出しちゃいました。結局、何回もたたくことになって申し訳なかったです(苦笑)。
飛鳥さんの浅草役は極度の人見知りという人物なので、台本を読んだときに一番難しいなと思っていました。セリフも『がががが』とか言葉にならない声みたいなものが多くて、どう演じられるんだろうなって。でも、現場に入ると普段の飛鳥さんじゃなくて、完全に浅草の魂が宿っているんじゃないかというぐらい人柄が違っているんです。演じきるというのはこういうことなんだと、衝撃を受けました。
一方で、山下のツバメちゃんは、素の彼女そのままの役柄。いつもの山下が違和感なく作品にすんなり入ってくる感じでした。
撮影のかなり後半で『映像研』のアニメ版の放送が始まったんです。原作が飛び出してきたみたいで、金森の声の印象も、私がマンガを初めて読んだときと一致すると感じました。でも、アニメを見る前にクランクインしていて良かったですね。もし最初にアニメを見ていたら、イメージが固まりすぎて、そちらに演技を寄せすぎちゃっていたかもしれないから。
今の私は乃木坂46のメンバーとしての活動と、ソロでは演技、女性誌『with』で専属を務めさせていただいているモデルの3つが大きな柱。それぞれでモードを切り替えているわけではなく、その3つがトライアングルになっていて、すべてがつながっているイメージです。お芝居をするうえでは、人との関わり合いや自分の人生経験が生きてくることがあるし、そこで培った演技力は、モデルのお仕事で表情のバリエーションにつながる。どの現場の経験でも、その3本の柱すべてに生かせるなと感じています。
今後、その3つでもっと力を入れていきたいものですか? うーん。自分に求められていることを一番にやりたいなと思っています。この『映像研』を見て、金森がいいなと思ってくれる方が多かったら、また機会があれば演じてみたいし、それが別のお芝居の仕事につながったらうれしいです。そもそも、この金森さやかという役に私を抜てきしてもらったのは、私のこの身長(170cm)が大きいと思うので、自分の武器にしたい。モデルの仕事もそうですが、そこはもう活躍できる場があれば存分に出していけたらと思います」
原作は『月刊!スピリッツ』で連載中の大童澄瞳によるコミック。超人見知りだが天才監督の才能を持つ浅草みどり(齋藤飛鳥)、カリスマ読者モデルでアニメーターの水崎ツバメ(山下美月)、金儲けが好きなプロデューサー金森さやか(梅澤美波)の3人が出会い、浅草が思い描く「最強の世界」をアニメで表現するために"映像研"を立ち上げる。ドラマは4月から全6話を放映(MBS/TBS系)。映画は9月25日公開(東宝映像事業部配給)
(日経エンタテインメント! 伊藤哲郎)
[日経エンタテインメント! 2020年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。