日経エンタテインメント!

劇中では急にテンションを高めて長いセリフを一気に早口でまくし立てる場面が多い。セリフはどのように覚えたのかと聞くと、「私にもそれが不思議で」と笑う。

先輩という憂鬱さ、初日に吹き飛んだ

(写真:鈴木ゴータ)

「もちろん家ではずっと台本を開いていたし、お風呂に持っていって読んだり、難しい専門用語をノートに書き出したりもしました。でも、実は移動中とか乃木坂46の仕事の楽屋とか、家以外では1度も台本を開いていないんです。だけど、本番になるとスラスラとセリフが出てくる。自分でも本当に不思議な感覚でした。きっと、文字としてというよりは、音として覚えていたんだと思います。台本のセリフを暗記するというよりは、全体を1つの写真みたいに記憶していた感じです」

共演する水崎ツバメ役の山下美月と、金森さやか役の梅澤美波とは、本格的に演技で一緒になるのはこれが初めて。後輩2人は、それぞれ映像や舞台での演技経験を持つが、彼女たちへの信頼関係は、どのように構築していったのだろうか。

「今はもう仲が良いし、そう伝えているつもりです。だけど最初は、それまであまり絡みがなかったから未知すぎて。それに、3人の中では私だけが先輩だから、現場では自分から距離を縮めていかなくちゃいけないのかなという不安もあって、すごく憂鬱でした(苦笑)。

でも、クランクインの日にその不安は払拭されたんです。梅澤はすごく真面目で、頭の中に“金森像”をちゃんと膨らませてから現場に来ていた。本読みのときとは、発声だけじゃなくて姿勢や立ち居振る舞いも全然違ったので、初日の時点で『できるな』と感じました。この作品で、金森と浅草の関係性は重要なので、『これは大丈夫だな』ってその日に確信できました。

山下は映像作品の経験が豊富だから、現場の雰囲気にすぐになじんで、お芝居でも先輩後輩という関係をちゃんと忘れて向き合ってくれたので、すごくやりやすかったです。うん、この2人でよかったなと思いました。

強く印象に残っているのは、映画で水崎をかばって動くシーンなんですが、山下を信頼できたからこそ、しっかり入り込んで演じられたんだと思います。あのときは、『水崎のために自分の苦手なことに立ち向かわなくちゃいけないけど、いざその状況になるとイヤだな』っていう浅草としての気持ちが湧いてきました。自分の位置から、金森の姿も見えたので、それでグッときたというのもありました。

私が目指しているのは、役所広司さんやリリー・フランキーさんのように、自然体なお芝居ができる役者さんになることです。この撮影を通して、英監督が、私が演じる浅草に対して『実際にこういう奴いるよね』と言ってくださって。これはうれしい褒め言葉だなって受け止めました。

『映像研』のおかげで、これまでどこかにあった恥じらいみたいなものが取り払えたので、次に演技ができる機会があれば、もっと自信を持って臨めるんじゃないかと思います。今後も、自分が納得できるお芝居ができる人になりたいです」

『映像研には手を出すな!』
 原作は『月刊!スピリッツ』で連載中の大童澄瞳によるコミック。超人見知りだが天才監督の才能を持つ浅草みどり(齋藤飛鳥)、カリスマ読者モデルでアニメーターの水崎ツバメ(山下美月)、金儲けが好きなプロデューサー金森さやか(梅澤美波)の3人が出会い、浅草が思い描く「最強の世界」をアニメで表現するために“映像研”を立ち上げる。ドラマは4月から全6話を放映(MBS/TBS系)。映画は9月25日公開(東宝映像事業部配給)

(ライター 西廣智一)

[日経エンタテインメント! 2020年6月号の記事を再構成]