日経ナショナル ジオグラフィック社

事実、3秒ルールが厳格な手法で調査された例は、シャフナー氏の研究以前には1つしかなかった。米クレムソン大学の食品科学者ポール・ドーソン氏が2007年に行った研究で、論文は査読を経て学術誌「Journal of Applied Microbiology」に発表された。シャフナー氏の論文と同様、物体の表面に接触してすぐ、食品には細菌が付着すると報告している。

ただし、この研究ではむしろ、細菌が汚染された食品の表面でどれくらい生きられるかに焦点を当てている。そこで、シャフナー氏のチームは、より多様な条件下で、より多様な食品をテストすることに決めた。

では、もし3秒ルールの誤りを科学が証明したとしたら、地面に落ちた食品を食べるのは安全ではないということだろうか?

それは地面の状態と付着する細菌の種類による。「食べ物を落とした場所が病院だったら、おそらく食べたいとは思わないでしょう」とドーソン氏は述べている。同様に、鶏肉の肉汁が台所の床にこぼれていたら、サルモネラ菌が付着しては困ると思うだろう。

しかし、ほとんどの場合、少しほこりが付いたクッキーを拾って食べても、正常な免疫系を持つ人が、床に存在する細菌のせいで健康を損なう可能性は低い。「おそらく99%のケースは安全です」とドーソン氏は話す。結局、最も重要な教訓は、床や物体の表面をきちんと掃除し、衛生状態を良好に保つべきだということだ。

それでも、3秒ルールは存在し続ける可能性が高い。シャフナー氏は「人々はこのルールが事実であってほしいと心から願っています」と分析する。「誰でもやっていることです。要するに、私たちは皆、床に落ちた食品を拾って食べています」

3秒ルールの価値はおそらく、微生物学的というより心理学的なものなのだろう。少なくとも、ルールがあれば、本来ならば好ましくない行動を、社会的に受け入れられる言い訳で帳消しにできる。床に落ちたクッキーを拾い、口に放り込む前に「3秒ルール!」と叫ぶだけで、周りにいる全員が大笑いできる。

そして、落としたジェリービーンズを食べるかどうかを決めるには、別の方法もある。誰かに見られていないかどうかを確認することだ。

(文 ERIKA ENGELHAUPT、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年9月3日付の記事を再構成]