うつの私、復帰に不安 再休職しないための3ステップ
うつのリワークプログラム(下)
こんにちは、編集者・ライターのふくいひろえと申します。以前、うつで休職していた私は、「リワークプログラム」を受けて復職し、今では「うつ患者」から「元うつ患者」になって、元気に働いています。
前回記事「うつ休職から仕事に復帰したい なんで『リワーク』?」では、「リワークプログラム」の成り立ちや概要についてお話ししましたが、今回はその続きです。
復職は単にスタート地点、ゴールは「再休職しないこと」
うつによる休職者にとって、復職後を想像すると気の遠くなるような毎日の連続が待っていると感じます。実際、私がそうでした。
体調を崩さずに働き続けられるだろうか。休日出勤や残業続きの毎日に耐えられる? うつだった私を、上司や同僚は受け入れてくれるだろうか。この先、会社が求める成果を出せるだろうか。体調が悪くなったらどうしよう? うつが再発してしまったら? もう、「死にたい」なんて思いたくない。ああああ…。
復職を前に、その不安はムクムクと際限なく、とてつもなく大きく膨らんでいきます。
求められるのは、「サステナブル=持続可能」であること、働き続けられること。もっと言えば、東京リワーク研究所の五十嵐良雄所長いわく、最初にうつを発症したときと全く同じ状況に置かれても、体調を崩さないでいられること。
「うっ、そんなこと…できるだろうか?」
そう、うつを発症したときと全く同じ状況に再び置かれたら、と想像して、「不安…」「無理です」と感じるようでは、まだまだ復職するには回復が不十分です。同じような状況に置かれたら再び、体調を崩し、うつを発症しかねない。そして、同じ状況に置かれないという保証はありません。
では、どうすればいいのでしょう?
その答えがリワークプログラムにあります。
足を骨折した人は、ギプスや手術などで骨折を治療します。骨はくっついても、歩けるようになるにはリハビリが必要です。
うつになった人は、自宅療養と服薬によって症状は回復します。
しかし、復職して、その後も元気に働き続けていけるようになるには、やはりリハビリが必要なのです。そのリハビリの内容は、いわば「休職しなければならなくなった自分が持つ課題を、自分で克服するスキルを身につけること」です。
症状が回復しただけの段階では「丸腰」のようなもの。プログラムでは、復職して厳しいストレスにさらされても、再休職せずに働き続けられるように、同病の仲間と一緒に、生活管理術からストレス対策、心理プログラムの認知行動療法までさまざまなスキルを学び、身につける工夫がなされています。
つまり「丸腰」で戻るのではなく、各種のスキルという武器をもらい、ヨロイを着せてもらって戻ることができるのです。
それでも、プログラムに参加して準備した人にとっても、復職は単なる再スタート地点にすぎません。目指すのは「復職」ではなく、「再休職しないこと」です。
ここで紹介している、うつの「リワークプログラム」は、国内200カ所以上の医療機関で受けることができます。地域や施設の規模などによってプログラムの内容は多少違いますが、中心には共通の考え方があります。それが次の「基本の三つのステップ」です。
1.集団に慣れる、生活を整える、病気を学ぶ
プログラム参加者は、症状や悩みなどを理解し合える同病の仲間と出会い、癒やしを得る一方で、集団に慣れ、コミュニケーション感覚を取り戻します。生活を規則正しく整えて、前向きに病気から立ち直ろうと、自分の病気について学ぶことが最初の一歩です。
2.なぜ休職に至ったかという自己分析により、自己の課題を明確にする
自分がうつを発症したときと、全く同じ環境・状況に置かれても、すべての人がうつを発症するわけではありません。ストレスに感じることは人によって違い、対処方法も異なります。ではなぜ、自分は休職に至ったのか―。
これを振り返る自己分析によって、自分のものの考え方や困った状況での対処方法などの特徴を探ります。そこには自分の課題が隠れています。何が自分の課題なのか、それが分かって初めて、再休職しないための対処方法を考えることができるようになります。
3.心理プログラム、集団プログラムによって対人関係能力を改善する
リワークプログラムには、さまざまな内容が含まれています。
自分の状態を知り、管理するためのセルフマネジメント方法やストレス対処法、モチベーションの維持方法、コミュニケーションスキル、認知行動療法などの心理プログラムなど、いわば自分自身を守るためのスキルを学び、身につけるための内容です。
そして、集団で行うプログラムのなかでは、さまざまな人間関係が生まれます。そうしたなかでプログラムで学んだスキルを実践し、自分の課題と向き合って改善していきます。
この三つが、うつによる休職から復職するためのリワークプログラムの基本のステップとなっています。
五十嵐所長のコメント
企業によって違いはありますが、私のこれまでの経験では、休職者が職場に復帰する場合、元の職場に戻ることが多いようです。定時勤務などの勤務時間や、業務量などの配慮はあるかもしれません。ですが、肝心なのは「病気を発症したときと同じ環境に戻る」ことです。
そうなると、大事なことは、自分で対処する方法を身につけることになります。そのためにはまず生活リズムを整えて症状を回復させる。これは出発点です。その次に、集団に慣れて病気のことを学ぶという段階があります。
職場で仕事をするということは集団の中でのこと、病気を学んで自分の状態は自分で把握して、管理できるようにならなければなりません。
そして、どういう環境が自分にとって危険なのか、どういう症状が最初に出てくるのかを見つけます。
また、なぜ自分にそういう症状が出てきたのか、自分側の要因を考えるのが自己分析です。物事の捉え方、判断の仕方、対処方法などで、このあたりがうまくいかなかった、追いついていなかったために病気を発症したのだと考えられるようになります。
さらに、そうやって頭の中で整理した課題を、実際に集団プログラムのなかで試してみることで、対処方法を学びます。
休職した時と同じ対処方法では、同じ結果になりかねません。休職の理由や原因をはっきりと認識して、それに対応した対処の方法を身につけることが、再休職の予防には最も大切なことです。
それを学ぶ場が「リワークプログラム」なのです。
(文 ふくいひろえ)
※この記事は「うつのリワークプログラム」(五十嵐良雄著)の内容を再構成したものです。
東京リワーク研究所所長。精神科医・医学博士。医療法人社団雄仁会理事長。メディカルケア大手町院長。1976年、北海道大学医学部卒業。埼玉医大助手、秩父中央病院院長などを経て、2003年メディカルケア虎ノ門開設。2008年、うつ病リワーク研究会発足、代表世話人に就任。2018年、一般社団法人日本うつ病リワーク協会理事長に就任。
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