無作為化比較試験によってのみ評価

FDAの緊急承認は、正式な承認とは異なる。新型コロナに関して、FDAから正式な承認を受けた治療法は米国にはまだ存在しない。FDAは、次のような声明を発表している。「現在入手可能な証拠に基づけば、回復期血漿療法を新型コロナの新たな標準治療とすることはまだできない。しかし、既知の潜在的な利益がリスクを上回る(編注:コンパッショネートユース実施条件のひとつ)と結論付けることは妥当である」

科学者たちのなかには、トランプ大統領が数カ月後に迫る大統領選前に承認を急がせようとFDAに圧力をかけたのではと疑う声がある。回復期血漿療法だけでなく、大統領は今は効果が否定されたヒドロキシクロロキンも強く推していた。

8月23日、英フィナンシャル・タイムズ紙の米国版は、トランプ政権がこの秋にワクチンの早期承認を検討していると報じたが、それまでに大規模な臨床試験が終了することはまずありえない。ロイターは8月20日、有効性が実証されていないワクチンをFDAが早期承認するようなことになれば辞任すると、FDAのある高官が話していると報じた。連邦政府は既に、国民に血漿の寄付を求めるデジタル広告とラジオ広告に800万ドル(約8億4000万円)の予算を組んでいる。

米アリゾナ大学の研究者で集中治療室医長のクリスチャン・バイム氏は、血漿療法に関わっている科学者たちを信頼しているため、政治的圧力のことは心配していないと語る。

「科学者たちが正しいことをしてくれると信じています。最良の慣例に従わない結果起こりうるリスクは、彼らにとってあまりにも大きすぎます」。ナショナル ジオグラフィックへのメールで、バイム氏はそう警告した。

回復期血漿療法をめぐる混乱は、新型コロナへの対応でことごとくつまずいてきた米国の問題のひとつを浮き彫りにした。それは、臨床試験の過程が全国的に連携されていないことだ。

ピロフスキー氏が率いる回復期血漿の無作為化比較試験(RCT)は、これまでに190人の被験者を集めている。4月17日にニューヨーク市で治験を開始したときには、連邦政府からの予算は受けていなかった。それから数週間のうちにニューヨーク市ではコロナが収束し始め、患者が集められなくなった。そして最近になってようやく国立衛生研究所から予算が回ってきたため、現在治験はコネチカット州、フロリダ州、テキサス州に拡大されている。「追いかけっこのような状態でした」と、ピロフスキー氏は振り返る。

ナショナル ジオグラフィックがインタビューした医師たちは、有効性を確認する無作為化比較試験の結果を見極めたいと答えた。

「人間の血漿を使用することには、理論上のリスクも現実的なリスクもあります。また、適切に評価されていないため、抗体が十分に含まれない血漿によるリスクも考えられます。それらのリスクは全て、無作為化比較試験によってのみ評価できるものです」と、カルバー氏は言う。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年8月26日付の記事を再構成]