5mの魚竜が4mの獲物丸のみ 奇跡の化石が示す証拠

日経ナショナル ジオグラフィック社

タラトサウルスの骨には消化された形跡が見られないことから、魚竜は食事を終えた直後に自らも死を迎えたと思われる。近くに沈んで化石化した尾の断片は、魚竜とほぼ同じ年代のものであり、魚竜が食事をした直後に死んだことを示すもう1つの手がかりとなっている。

タラトサウルスの体長は魚竜とほぼ同じだったが、藻谷氏の推定では体重は8分の1しかなかったようだ。それでも、反撃はできた。

魚竜の化石は完全に保存されているのに首だけが千切れていたため、「これはまったくの憶測ですが、戦いの最中に、魚竜は首に怪我をしたのではないでしょうか」と藻谷氏は言う。確かなことは分からないが、魚竜が苦労して勝ち取った食事をのみ込もうとして悪戦苦闘しているうちに、傷が大きくなってしまったのかもしれない。

胃の内容物が、体から突き出た塊として見えている魚竜の標本(PHOTOGRAPH BY RYOSUKE MOTANI)

生物が大量絶滅した海、驚きの早さで回復

ノルウェーにあるオスロ大学で古代の海生爬虫類を研究する古生物学者のオーブリー・ジェーン・ロバーツ氏は、この化石は、死闘の最中に石に閉じ込められた古代の海の怪物の魅力に加えて、生態系がいかに早く回復するかを語っていると言う。

ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(ナショナル ジオグラフィック協会が支援する研究者)でもあるロバーツ氏は、「約2億5200万年前に生物の大量絶滅がありました」と言う。「特に海洋生物への影響は大きく、その90%が絶滅しました」。その時の絶滅の規模を考えると、わずか1000万年ほどで生物がここまで回復し、多様化できたのは驚くべきことだとロバーツ氏は言う。

なかでも印象的なのは、このようなメガプレデター的な行動が大量絶滅後すぐに出現したであろうことだ。なぜなら、食物連鎖が再構築される時には、頂点捕食者は最後に進化すると考えられているからだ。

「その点で、この論文は非常に重要です」とロバーツ氏は言う。「壊滅的な打撃を受けた海が、その生態系を回復させるまでの物語を教えてくれているのです」

(文 JASON BITTEL、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年8月25日付の記事を再構成]

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