
今回興味深かったのは、1位と2位の豆の品種名が「74158」「74110」と数字表記で、一般的な「ブルボン」「ティピカ」といった名前がついていないことだ。
「エチオピアは探せばいい豆がまだいっぱいある。今回のは氷山の一角です。COEを契機に競争が起きて、この国のコーヒーの品質レベルはメチャクチャ上がりますよ。そしておそらく、この動きはCOE未開催の隣国ケニアにも飛び火する。両国は、品質と量で間違いなく世界最強の生産国ですから、今後が楽しみですね」
ちなみに今回落札した豆はいつごろ日本で味わえるのだろう?
「本当は空輸で10月1日の『国際コーヒーの日』に間に合わせたかったんですが、まだ少し時間がかかりそうです。なるべく年内には到着させたい。ギリギリ利益が出る価格水準で提供できれば、と考えています」
さて、世界の社会・経済活動をリセットに追い込んだコロナ禍は、丸山さんの社長業においても1つの転機となりそうだ。かつては1年の半分以上を海外の産地巡りなどに費やしていたが、今年は1月以来、ずっと日本にいる。
「その間に痛感したのが、当社も規模が大きくなり、組織をもっと整えなきゃいけない、ということ。信頼できる社員に仕事を任せて、僕は細かいことに口を出さず、味覚を中心にブランドのチェックに心を砕く。もう以前のようにずっと海外に行くことはないと思います」
企業としてさらに成長し、年商20億円の壁を越えたい。同時に、コーヒーに真摯に向き合うクラフトマンシップのDNAも残したい。この両立を可能にする人づくり、組織づくりが目下最大の課題と認識している。

丸山珈琲の売上高は7月には前年の95%まで戻った。下支えしたのは通販を中心とする豆売りだ。さらに客層を広げるべく、新たな仕掛けを模索し続けている。4~6月にはコーヒー好きだったベートーベンの生誕250周年の企画を実施。若手指揮者の水野蒼生さんとコラボしたオリジナルブレンドのコーヒーバッグは9日間で完売した。
「音楽などの文化とかスポーツとかに関心のある集団(クラスター)と、コーヒーを結びつけることで、新しいお客を掘り起こせる。そうした面白い切り口はいくつもあると思います」
日本に限らず、コロナ・リセットで浮かび上がるのは「日常生活のグレードアップ」「家の中の充実」といった消費のキーワードだ。そこでコーヒーという飲み物が存在感を発揮する余地は大いにある。スペシャルティコーヒーも、その一枚看板である丸山珈琲も、身近な楽しみの新しい価値を明示し続けることで、混沌の先に確かな足がかりを得られるはずだ。
(名出晃)