見た目は変わらないが中身は激変

走り出してもエンジン音に気づかないほど静か。音楽を楽しむのにもふさわしい環境だ

では、走りはどう変化したのか。「ボルボXC60 B5 AWD インスクリプション」で市街地から高速道路を含めた郊外まで、幅広いシチュエーションを試してみた。実車を目の前にしても、見た目の変化はほとんどない。

だがエンジンを始動すると違いに気づく。従来のスターターモーターの代わりによりパワフルなISGMを搭載したことで、始動がより静かでスムーズになっている。もともと静粛性が高いクルマだが、アイドリングストップ後のエンジン再始動の振動や音から解放され、さらに上質感が増した。

B5はエンジン性能自体が高いため、加速でモーターアシストの恩恵を強く感じることはない。それよりも驚かされたのは、走行時の静粛性の向上だ。市街地や高速道路を巡行していると、車内にエンジン音がほとんど届かないのだ。

静かすぎて「エンジンが動いていないのでは」と疑い、試しにアクセルを踏み込んでエンジン回転数を高めると、回転上昇の度合いが分かる程度の小さなエンジン音が車内に伝わってきた。実は、B5のエンジンは遮音材や車体との取り付け部品にも手を加えており、電動化とともにエンジンの存在感を薄める工夫が施されていたのだ。

さらにターボチャージャーも改良され、反応が良くなっている。これにより全面的にスムーズで主張の少ないエンジンに仕立てているのだ。完全電動化に向け、ユーザーを慣れさせる意味とともに、電動化を「高級化路線」のひとつの武器に変えようという狙いもあるのだろう。

従来型のT5を搭載したXC60は、ターボエンジンらしいパンチのある加速とリズミカルなエンジン音を感じられ、ややマッチョ感のあるアクティブなSUVにふさわしい味付けだった。一方のB5は、電動化だけでなく、エンジン自体も洗練され、控えめとなったことで高級感を増している。XC60の力強いデザインにはタフな走りを連想させる「T5」も似合っていたが、ボルボというブランドが目指す方向性を考えると、こちらがベターということなのだろう。

上位グレードの「インスクリプション」は、スウェーデンの「オレフォス」製のクリスタル・シフトノブを装備する

電動化を環境対策だけでなく、高級感を高めるための武器として手なずけた技術者たちの味付けは、見事といえる。実はB5は、新たに気筒休止機構や電動式ブレーキペダルなどを採用するなど、技術的な進化も少なくない。ただ、その違いをドライバーに感じさせないほど、しっかりと自然に作り込んでいる点も評価したい。

クルマ好きからするとエンジンの存在感が薄まったことは、少し寂しくも感じられる。だが、車内はより音楽を楽しむのにふさわしい環境となった。XC60には、エントリーグレードでは170W・10スピーカーのオーディオシステムが備わる。上級グレードでは「ハーマンカードン」の600W・14スピーカーのシステムに変わる。さらにオプションとして、英高級オーディオブランド「バウワース・アンド・ウィルキンス(B&W)」の1100W・15スピーカーのシステムまで用意される。今やSUVをセダンやミニバンの代わりに使う人も多くなった。それだけに快適性の向上は多くの人にメリットとなるだろう。

電動化は、環境対応のためにはどのメーカーも避けては通れない道だ。だが電動化によるコスト増に見合うだけのユーザーメリットを提供するのは容易ではない。そんな中、電動化をクルマの味の向上にうまく盛り込んできたところに、高級車ブランドへと転身を遂げたボルボの意気込みを改めて感じた。

大音安弘
 1980年生まれ、埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在は自動車ライターとして、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材している。自動車の「今」を分かりやすく伝えられように心がける。