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ありきたりの「正解」にとらわれない考え方が会話を弾ませる(写真はイメージ) =PIXTA

ありきたりの「正解」にとらわれない考え方が会話を弾ませる(写真はイメージ) =PIXTA

知り合いのお笑い芸人たちがやたらとクイズの勉強に精を出している。コロナ禍のせいで、大勢が出演する、いわゆる「ひな壇」式のトークバラエティー番組の収録が難しくなり、「クイズ番組でしかテレビに出られない」という状況に追い込まれているのだそうだ。

お笑い芸人の多くは、しゃべりが持ち味で、そのスキルを最大の強みにしている人も少なくない。それなのに、今のコロナ禍は彼らが自慢の話芸を発揮するチャンスを奪ってしまった。画面越しに視聴者へ飛沫が飛ぶはずもないが、沈黙を強いられている視聴者にとうとうとしゃべくり芸を見せるのを、テレビ局側が手控えているのかもしれない。

「トーク番組でもクイズ番組でも、出演には違いないのだから、別に構わないのでは」と、考える視聴者もいるだろう。だが、実際はそうではない。しゃべり主体の番組では、芸人ならではの巧みな掛け合い技を披露することができる。様々なリアクションを織り込みつつ、トークを立体的に演出しやすいのだ。寄り道や脱線を繰り返しながら、ネタを組み立て、笑いどころをこしらえる。聞き手を自在に連れ回す話芸は、しゃべりテクニックのお手本にもなってくれる。

一方、芸能人が中心のクイズ番組では、言葉のやりとりが直線的になりがちだ。基本的には「出題→解答→正解発表」という流れで番組が進む。1番組あたりの出題数があらかじめ決まっていて、受け答えの時間も間延びが許されない。芸人解答者が言葉を発する機会は解答と正解発表前後の短いタイミングぐらいしかない。

もらえる時間が限られているうえ、全体の進行がクイズ主体だから、芸人が選べる行為は「短い面白フレーズ」「にぎやかしのリアクション」程度に絞られる。いずれも話芸の披露というよりは、「一発芸」に近い。

それでも「笑い」が期待されている立場上、文化人や知性派タレントと同じ振る舞いは避ける必要がある。つまり、解答発表の段階でまず最初の笑いを起こそうと思えば、自分たち以外の「まじめに正解をひねり出そうとしている解答者」とは異なる解答を示す必要があるわけだ。

笑いにつながりそうな「計算された不正解」を導くためには、実は結構なブレーンワークを要する。「まじめな解答者が示しそうな、正解か正解に近い解答」を予測するスキルが求められる。芸人がクイズの「勉強」にいそしむ理由の一つがここにある。クイズ番組で求められる、正解の導き方を、あらかじめ頭に入れておかないと、「普通の解答者」になってしまう。

ただ、いくら面白い解答を用意しても、芸人が笑いに生かせる言葉数と時間枠はかなり少ない。正解発表用の映像や専門家の解説などが後に控えているから、大した余裕はもらいにくい。あらかじめ用意された「正解」をゴールと位置づける、クイズ番組特有の構図は、しゃべり芸を披露するにはいささか窮屈だろう。

もっとも、昨今のクイズ番組では面白い不正解を発するだけではだめで、そこそこ正解も出して、「クイズ得意芸人」のような評価を得る必要もあるのだそうだ。かつては常識はずれの珍答を連発する、いわゆる「おバカ系」タレントがもてはやされたが、もう飽きられたようだ。だから、世の中で流通しているクイズ問題集を買い込んで、実力を高める芸人たちも現れている。立派な努力と映るが、やや「芸人」の本筋からずれているような気がしないでもない。

「おバカ系」の対極に位置するのは、高学歴の出演者だ。今や東京大学の学生はクイズ番組のスター的存在になっている。実は彼らが出演する某人気番組のパイロット版は、私が担当した。今は売れっ子扱いの東大生も当時は「私たちで大丈夫でしょうか」といった感じでテレビ慣れしていなかったが、今では堂々としたものだ。

一方、芸人がクイズを勉強して、正解率をいくらか高めたとしても、番組の演出上、本来のお笑いスキルを発揮するチャンスが得にくいのでは、腕のふるいようがない。クイズの正解ではない「演者としての正解」を表現できる人たちだけに、画面上の「にぎやかし」に終わるのでは、何とももったいない限りだ。

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