株式投資の落とし穴 株主優待や高配当に目を奪われ…
コロナの先の家計シナリオ ファイナンシャルプランナー 中里邦宏
新型コロナウイルスの影響で株式相場の将来が予測しづらくなっているなか、株主優待が充実していたり高配当だったりする銘柄は、ときに魅力的に映ります。
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これまで株式投資を経験したことがない人から「株主優待を目当てに株式投資をしてもよいか?」といった質問を受けることがよくあります。現在のようにコロナの影響で株式相場の予測が難しくなっているなかでも、それは変わりません。そして、よく話を聞いてみると、「友人が株主優待の割引券を使い、一緒に食事に連れて行ってくれた」「株主優待の品が送られてきている知人のSNSの投稿を見て、うらやましいと思っていた」など、もともと身近な経験から株主優待に魅力を感じていた人が少なくありません。
株主優待はあくまで「お礼」
そもそも株主優待とは、企業が自社の株式を持っている株主に対し、お礼の気持ちとして様々なものを贈る制度です。株主優待として贈られるのは、自社製品や自社サービスに利用できる金券や割引券のほか、米やクオカードなど、そのバリエーションは目移りするほどです。
では、冒頭の質問のように株主優待を目的に株式投資をすることは果たしてどうなのでしょうか? 得策なのでしょうか? 結論から言えば、株主優待を目的とする株式投資も、もちろん「あり」です。
しかし、そもそも株式投資をするときの目的は何かといえば、投資した額に対する「利益」を得ることのはずです。その点、株主優待はあくまでもお礼として贈られるもので、株式投資の「プラスアルファ」の部分にすぎません。株主優待のメリット分以上に株価が下がって損をしては、本末転倒です。
まして、2月から続くコロナの影響から倒産などが起これば、投資した資金をほぼ失う事態にもなりかねません。そうした事態は最も避けたいところですが、それを避けるにはどうすればよいでしょうか?
最低限、財務状況はチェックする
その対策の一つが株を買う前に、その企業の最低限の財務状況だけはチェックしておくことです。もちろん、詳しく見るに越したことはありませんが、2つの項目は最低限、確認しておきましょう。チェックするといっても、ものの数分ですみます。
その2つとは、本業で利益があがっているかを見る「営業利益」、そして財務の安定性を見る「自己資本比率」です。これらの言葉を聞きなれない人がいるかもしれませんので、さらに詳しく見ていきましょう。
まず、営業利益は過去から今期予想も含めてその推移を見るのがポイントです。今期の業績予想が前期と比べて悪化している場合、それがコロナの影響だけなのかどうかを確認するためです。営業利益は本業の利益をあらわすものですから、これがコロナ以前から下落傾向だったり、すでに赤字だったりする場合、業績の回復が以前にも増して厳しいとも考えられます。
次に、ふたつめの「自己資本比率」を見ていきます。これは、いわば倒産リスクを見る資金繰りの指標でもあります。業種にもよりますが、一般に30%以上が財務が安定している目安とされています。
いずれの指標も、各企業がホームページ(HP)などで公表している決算短信(1ページ目)や情報媒体を見れば数分で確認することができます。
配当金は増え続けても株価は半値以下
さて、ここまで株主優待の話をしてきましたが、それと似た相談に「配当金が多く出る企業の株式なら、定期的にお金が受け取れるしメリットがあるのでは?」「配当金が出ているなら、その企業は順調ということか?」といったものがあります。果たしてこの考え方に落とし穴はないのでしょうか?
たとえ配当金が増えていったとしても、株価が大きく値下がりするケースはあります。株価に対する配当金の割合である「配当利回り」の上昇は、単に配当金が増えるだけの影響ではないことが配当利回りの計算式を見るとわかりやすいと思います(図1)。
日本たばこ産業(JT)の例を見てみましょう。JTは配当利回りが約7.8%(2020年8月末現在)と高く、株主優待もあります。配当利回りは株価が高値をつけた15年7月時点では約2.5%に過ぎませんでしたが、なぜ大きく上昇したのでしょうか? その理由は15年以降、配当金が増え続ける一方で、株価も半値以下まで下がったからです(図2)。
企業の将来、自分なりに見極める
このように株主優待や配当金だけに目を奪われ、株主優待や配当金を出せるならその企業が順調である証拠とばかりに株式投資をしていると、思わぬ株価の下落に遭遇して本末転倒の状態にもなりかねません。
そうならないために、最低限のポイントをおさえて、その企業の将来を自分なりに見極めて株を購入したいものです。財務はその企業の状態を如実に表し、また株価はその企業の将来性も織り込んでいくものです。
興味を持てる株主優待や高配当の企業を見つけたら、あと少しだけ手間をかけて確認してみてください。
ファイナンシャルプランナー(CFP)、マネーディアセオリー株式会社取締役副社長。上場メーカーで設計担当後2004年にFP事務所を開業、16年に法人設立。顧客が納得するまでシミュレーションを繰り返すライフプラン相談を中心に、資産運用教育、ライフプランツールのプランニング、ロジック提供なども手がける。日本証券アナリスト協会検定会員、1級FP技能士、DCプランナー1級。
「ニューノーマル」「新常態」とも呼ばれる新しい生活様式が広がっています。コロナで一変した家計の収入や支出、それに伴うお金のやりくりをどうすればよいかも喫緊の課題です。連載「コロナの先の家計シナリオ」は専門家がコロナ後のお金にまつわる動向を先読みし、ヒントを与えます。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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