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黒柳徹子さんと森光子さん 受け継ぐ思い(井上芳雄)

第76回

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。8月は演劇界のレジェンドの番組に、続けて出演させていただきました。8月14日には黒柳徹子さんの『徹子の部屋』(テレビ朝日系)、28日にはNHK特番『森光子生誕100年 ~放浪記 永遠のメッセージ~』(BSプレミアム)が放送されました。お2人からは多くのことを学ばせていただき、思いを受け継いでいく大切さを感じています。

『徹子の部屋』には12年ぶりの出演です。今回は自分の話を聞いていただいたのに加え、前から聞きたかった話をうかがえたのがうれしかったです。徹子さんは、日本のミュージカル黎明期のころから舞台に立たれていて、1967年初演の『屋根の上のヴァイオリン弾き』、69年初演の『ラ・マンチャの男』などに出演されています。その当時のお話です。

徹子さんはもともと声楽をやられていたから歌はお上手だったでしょうし、ミュージカルにも情熱を持たれていました。70年に東宝が製作した『風と共に去りぬ』のミュージカル版、『スカーレット』の初演に出演したとき、来日した作曲家ハロルド・ロームさんの夫妻に気に入られたのがきっかけで、ニューヨークに1年間、演技の勉強に行ったそうです。向こうでは毎日パーティーに呼ばれていて、着物姿の写真も見せていただきました。まるで別世界の話を聞くようで、とても興味深かったです。

徹子さんは、ロームさん夫妻の紹介で知り合った一流の人たちが、みな穏やかでオープンで、隔てなく人と接する人たちばかりだったのに驚いたとおっしゃっていました。僕は、徹子さんも同じで、そんなところがすてきだと思っていたので、その源が分かったような気がしました。当時の日本はまだタテ社会が強く、特に女性が外で働くのは今よりずっと大変だったと思います。そんななかで徹子さんたちの世代は、米国の文化や価値観のいいところを学んで取り入れて、自分のものにしてきたんだなと。僕もニューヨークで演劇人と接すると、オープンマインドを感じるので、納得できました。

そうやって本気でミュージカルを勉強したけど、本場の舞台を見たら、徹子さんは自分にはここまでできないと悟ったそうです。日本語でミュージカルをやる難しさもおっしゃっていました。それは、いまだに僕たちの課題の一つ。日本にミュージカルを根付かせようと頑張ってきた徹子さんら先輩たちの思いを引き継いで、取り組んでいかなければいけないと、あらためて肝に銘じました。

女優と司会を両立させた仕事のあり方も、学ばせてもらっています。コロナ禍で舞台が飛んだという話になったとき。徹子さんも女優を始めたころ、一つのドラマが終わったら、次のドラマまでスケジュールが2、3カ月空いてしまうことがよくあり、そういうときに当時のマネジャーさんが『徹子の部屋』につながる司会の仕事を決めてきてくれたそうです。「女優の仕事がない間も、ほかのこともやっていれば何とか仕事が続いていくから、私はすごくラッキーだったと思うの」とおっしゃられました。僕も舞台俳優だけど、それしかやらないのはリスキーだと考えていたので、同じ思いです。女優としても舞台を続けていらっしゃるし、そういう意味ではお手本というか、自分が目指したいところにいる方です。

司会者としての徹子さんは、オーソドックスなスタイルなのかなと思います。下調べした内容を頭に入れていて、それに沿って話を聞いていく。収録だけど生放送と同じくらいの長さしか撮らないし、予定していたテーマをちゃんと聞いた上で、脱線したり、違う要素が入ってきたりします。

番組に2回出て感じた徹子さんのすごさは、間をつくらないこと。こっちが言いよどんだり、話が終わって間ができそうになると、徹子さんはすかさず言葉をはさんできます。だから、流れるように会話が進んでいく。僕も司会をやるときは、お客さまが「ん?」と思う変な間を空けたくないと思うんです。相手が考えこんだり、うまく言えなかったりすると、「それはこういうことですよね」とか「こうも考えられますね」と、さっと言えると話がうまくつながります。徹子さんはそれが自然にできるのがすごいし、空気のつくり方が本当にうまい。その絶妙な話術も、学ばせていただきたいところです。

森光子さんの言葉「お客さまはあなたの味方だから」

NHK特番『森光子生誕100年 ~放浪記 永遠のメッセージ~』は、2012年に亡くなられ、今年生誕100年を迎えた森光子さんの思い出を、黒柳徹子さん、東山紀之さん、堂本光一くんら交流があった俳優たちが振り返る番組でした。岡本健一さん、上白石萌音さんが、森さんの映像とバーチャル共演するコーナーもありました。僕は森さんの思い出を話すとともに、『放浪記』で共演された田根楽子さん、丸山博一さんから当時のエピソードをうかがいました。

番組でも話しましたが、僕が森さんから言われて大事にしている言葉があります。26歳で初めて帝国劇場で主演したときのこと。『ミー・アンド・マイガール』というミュージカルで、コメディのお芝居に自信がなくて稽古中に苦しんでいたとき、森さんから「お客さまはみんなあなたの味方だから。そう思って初日の舞台に出なさい」と伝言をいただきました。不安でいっぱいだったのですが、森さんがおっしゃるのだから、と思って舞台に出たら、温かいお客さまでドッと笑いが起きて、とてもうれしかったのを覚えています。

今考えると、その言葉は役者なら誰でも言ってほしいこと。でも、逆に誰かにかけてあげるとすると責任も生まれるし、本当に「あなたなら大丈夫」と思ってないと言えないでしょう。だから、若かった僕に森さんがそう言ってくださったのはありがたいし、時がたつにつれ、重みが増してきます。僕は今も、その言葉を胸に舞台に出ていきます。

森さんには、差し入れだったり食事だったり、いろんな形で気にかけていただきました。楽屋にかけているのれんも、森さんからいただいたものです。晩年だと思いますが、「なにかしてあげられることはないかしら」と言われて、厚かましいと思いながらも、初めて自分からお願いしました。森さんが誰かに贈られた最後ののれんだったかもしれないです。ずっと大事にかけています。森さんをはじめ、間を取り持っていただいた東宝の方々を含めたみんなの「頑張れよ」という気持ちがこもっていて、こののれんをくぐって楽屋に入ると、お芝居もうまくいくような気がします。

僕が最初に見た森さんの舞台は『おもろい女』という喜劇で、その後に見た『放浪記』も含めて、純粋に面白いと思いました。僕がミュージカルをやり始めたころは、和物のいわゆる座長芝居がまだ多く上演されていましたが、若かった僕にはハードルが高いし、内容も全部が楽しめるわけでもなかった印象です。その中で森さんが演じられていた芝居は面白くて、こんな時代にこんな人がいたんだ、すごいな、と思って見始めたのですが、その印象は最後まで変わりませんでした。『放浪記』は当初は5時間あったそうで、最後のころでも3時間以上。今の時代とは全く違うテンポ感ですが、全然飽きさせない。しかも、中劇場の芸術座で始まったものが、帝国劇場や大阪のフェスティバルホールのような大劇場でも成立してしまう。和物のお芝居でも、どんな劇場でも、誰でも楽しめるエンタテインメントにできるんだ、という驚きが、森さんの『放浪記』にはありました。

番組では、岡本さんと森さんの映像がバーチャル共演したのですが、その収録を見ていて、森さんのすごさを再認識しました。61歳当時の映像でしたが、まずとてもすてきな声をされている。そしてセリフが速い。ぽんぽん出てきて、間も絶妙です。ある意味、現代的なのかもしれません。岡本さんは「合わせるのが大変だ」とおっしゃっていましたが、岡本さんの演技もすてきで、森さんとの掛け合いに見入ってしまいました。

実際に共演された田根さんや丸山さんがおっしゃっていましたが、森さんは誰の芝居でもちゃんと受け止めて、絶妙に返してくれたそうです。だから、相手も上手く見える。自分だけが前に出て行くタイプの主演女優ではなく、周りの人たちの演技を受け取って、ちゃんと返していって、自分の場になれば見せることもするというタイプだったのかなと思いました。森さんご自身も、そういう方だったと思いますし。

もちろん女優としての技術も、引き出しが多かったと思います。例えば、「照明が消える一瞬前に、ふと表情を変えるの。そうすると暗くなってからも、その表情がお客さまの記憶の中にずっと残るのよ」と教えてくれました。そういう技術をたくさん持っていたのでしょう。番組を見て、森さんは本当にうまい、と感心しました。

『放浪記』は2017回という単独俳優による最多公演記録を打ち立てたので、初演のあとすぐに毎年再演してるようなイメージがあります。でも実際は、初演は評判になり賞もとったのですが、再演されるまで10年くらい間がありました。森さんにとって『放浪記』は人生初の主役で、初演当時41歳。僕らが知らないことはまだたくさんあるでしょうし、ご苦労もあったと思います。でも、それをそれを感じさせない人だったし、みんなが思い出して、懐かしんで、また会いたいと思えるって、素晴らしい人だと思います。

新しいことに挑戦しつつ、大事な作品もやり続ける

森さんはカーテンコールで、自分の思いを公言することが多々あったそうです。番組では、『放浪記』が2000回を達成した2009年公演の千秋楽で、みんなが最後の公演だと思ってあいさつしているなか、森さんがいきなり「私は最後だと思っていません」とおっしゃった映像が紹介されました。実際、翌年には再演が決まりました(残念ながら体調不良で公演中止となりましたが)。このカーテンコールで希望を言うやり方は、実は僕も学ばせてもらっています。僕も「まだ決まってないのですが、このメンバーでまた再演できたらいいですね」とか言ってしまうので。もちろん決定権は製作サイドにあるので、お願いします、と言って反応を探るという感じではあります。でも座長として言っておきたい、という思いは、僕もその立ち場になってよくわかるようになりました。

森さんの基本的なスタンスは、年に新作を1本、再演を1本という2本立てで何十年もやっていらっしゃったようです。それも、すごく参考になります。新しいことに挑戦しつつ、大事な作品もやり続けるというのは、役者の理想的な形だと思います。

今年はコロナ禍で演劇界は公演中止が相次いで、大変な打撃を受けました。もし森さんがご存命だったら、どんなだったかなと思います。落ち込んでいる僕たちを、すごく励ましてくださっただろうし、差し入れもたくさんしてくださったでしょう。きっと明るく、みんなをサポートしてくれたでしょうね。

僕が思い出すのは、晩年の森さんの『放浪記』は1日1回公演でした。当時、僕は若くてばりばりに1日2回公演をこなしていたので、きついなあと思いながら、いつか森さんのように1日1回公演で許される俳優になりたい、と冗談のように話したことがあります。それが今年、コロナの自粛が明けて公演が再開されたころ、感染対策に慎重を期して1日1回公演がしばらく続きました。図らずも森さんと同じスケジュールになったけど、全然うれしくなかった。本意じゃない、もっとやりたい、と感じて、それを森さんに話したいな、と思いました。森さんは「まだまだね」と言って、笑ってくださったのではないでしょうか。

「お客さまはあなたの味方だから」という言葉もそうですし、人との接し方にしても座長のあり方にしても、間接的にですが、森さんに多くを学ばせてもらいました。まだまだ足元にも及ばないですが、少しでも近づけるよう、頑張っていきたいと思っています。

井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第77回は2020年9月19日(土)の予定です。

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