地域デビューに不安漫才師・作家、山田ルイ53世さん

やまだるい53せい 1975年兵庫県生まれ。愛媛大学中退後に上京し、芸人の道へ。99年、ひぐち君と「髭男爵」結成。2018年には月刊誌連載の「一発屋芸人列伝」が「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞。
やまだるい53せい 1975年兵庫県生まれ。愛媛大学中退後に上京し、芸人の道へ。99年、ひぐち君と「髭男爵」結成。2018年には月刊誌連載の「一発屋芸人列伝」が「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞。

人前で話すことが苦手でしたが、仕事で場数をこなすうちに得意になりました。ただ、プライベートになると話題に乏しくなります。職場を離れる日が近づくにつれ、地域デビューに不安を感じます。(神奈川県・60代・男性)

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引退後の“地域デビュー”が不安だという相談者。平たくいえば「ちゃんとお友達出来るかなー……」といったところでしょうか。仕事一筋だった(違っていたら申し訳ない)人間にとって、“近隣”とはむしろ見知らぬ土地。ゼロからのスタートと言っても過言ではありません。

中2の夏、とあるキッカケから不登校、そのまま6年間引きこもり生活を送った筆者。20歳手前で大検を取得し地方大学へ潜り込んだとき、芸人を志して上京したとき等々、新規のコミュニティーに入っていく際の心細さは、よく知るところです。

ただ今一つ、このお悩みがピンとこないのは、筆者自身が社交に疎く、趣味の類が一切なくとも、平気だからかもしれません。

週末、バーベキューやフットサルに興じることもなければ、芸人仲間と呑(の)みに繰り出すこともない。「“おうち時間”を有意義に!」といった風潮が幅を利かせたコロナ禍の中、SNS上で散見された「#こんなときこそ楽しもう!」といったツイートには、「では、どんなときなら落ち込んでも良いのか?」と問いただしたくなりました。

もちろん、素晴らしいことなのでしょうが、一方で、昨今の厳しい現状を“こそ”の一つで一蹴するような“ポジティブさ”には、辟易(へきえき)としてしまう。もはや、後頭部に銃を突き付けられ「前を向け!」と命令されているよう……とまあ、終始こんな調子。

先述の通り、そもそも実生活が“オフライン”なので、“オンライン呑み会”にも無縁でした。はた目には「つまらない生き方だなー」と映るでしょうが、心配ご無用。筆者のモットーは「つまらなく暮らす」こと。その方が性に合う、心穏やかだという人間がいても良いと思うのです。

引退間近の相談者は「老後を『素敵(すてき)に!』『キラキラと!』暮らそう!」と声高に叫ぶパンフレットや書籍に触れる機会も増えたでしょうが、あれは旅行誌の温泉写真と同じ。“映え”を意識し過ぎた角度から湯船を眺めているので「……なんか狭くない?」と現地でがっかりなんてことになりかねません。

「プライベートの話題が乏しい」との嘆きに親近感を抱く筆者としては、ぜひ、胸を張って老後を“持て余して”いただきたい。それでこそ“余生”。焦りは禁物です。

[NIKKEIプラス1 2020年9月5日付]


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