「新入社員の仕事を考えてみましょう。最初はとりあえず指示されたタスクを120%でやるしかない。そのとき大事なのは、受け身じゃなくて、先輩や上司とコミュニケーションが必要です。締め切りを確認するところから始まり、3割ぐらいできた段階で軽く見せる。さらに改善提案など、どんどん自分の意思を含めてコミュニケーションをとっていく。もし期待以上の成果を出せれば、他の仕事もやってみないかと声がかかる。そのキャッチボールの繰り返しがキャリアにつながっていくはずです」

求められるスキルが多様化

キャリアを意識する学生はスキルについても関心が高い。フィナンシャル・タイムズの記事「2020年代に必要な5つのビジネススキル」を引用しながら、最近注目のソフトスキル(コミュニケーション能力などの非定型スキル)について解説した。

これから求められるソフトスキルについて村上さんは「変化が早いので、とりあえずやってみて判断するという適応力は大事だと思います。それから最近リーダー教育の中に、コンパッション(共感)がキーワードとして出てきているんです。コロナ禍で職場がコミュニケーション不足になりそうなときに、メンバーの気持ちを理解した上で助けていくことがこれからのリーダーに求められるスキルの1つになっています」と語る。

イベントの中では大学生が村上さん(上段左)に質問したり、村上さんから学生へ逆質問する場面もあった

求められるスキルについては、企業の求人においても変化が見られる。「求められるスキルが多様化していて、色々な職種でスキルの掛け算が増えているのが最近のビジネスの特徴です。リンクトインの人材ビジネスのデータ上でも、エンジニアでプログラミングのコードが書けるということにプラスしてプレゼンが上手、イベントに登壇もできる、というような人の需要が顕著に増えています」(村上さん)といった動向があるという。

メンバーシップ型が合うケースもある

イベント中、Zoomのチャット機能を使って、参加学生からの質問やコメントも受け付けた。米国に留学中の学生からは、「どの業界のどんな会社に入るかということよりも、米国ではどんなチームのどんなポジションで働きたいのか、具体的に説明しないといけない機会が多い。日本ではあまりそういう話にならない」という声があがった。

ジョブ型に対比して、日本企業の多くはメンバーシップ型だと言われる。両者のメリット・デメリットについて質問が出たところ、村上さんは「やりたいことがよくわからないという場合には、定期異動で自分の好きな仕事を探していけるメンバーシップ型がいいかもしれません。ジョブ型では、違う仕事がしたくなったら大学院などでもう一度勉強し直してから応募するということをしないと職種を変えることは難しいです」と答えた。

最後に、日本型(メンバーシップ型)の雇用システムが今後どう変わっていくべきかについて、村上さんはメンバーシップ型とジョブ型のどちらがいいかという二元論は危険だと指摘した。「メンバーシップ型もうまく機能している部分とそうでない部分があって、ジョブ型を日本に導入すればうまくいくわけではありません。日本は歴史的な経緯で、(雇用についての)社会保障を会社に依存してしまっているという構造的な問題もあります。しかし時代の変化とともに、会社もそこまで強くなってきている部分もある」と述べたうえで、解像度を高くして議論する必要があると強調した。

村上臣
青学大理工卒。在学中に電脳隊を設立。経営統合した携帯電話向けソフト開発、ピー・アイ・エムとヤフーとの合併に伴い、2000年ヤフー入社。ソフトバンク(当時)による買収に伴い06年、英ボーダフォン日本法人出向。11年ヤフー退社、12年同社復帰、執行役員チーフ・モバイル・オフィサー(CMO)。17年リンクトイン・ジャパン代表。

「キャリアをつくる」の記事一覧はこちら