日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/9/16
再び礼拝の場として開かれたアヤソフィアで、86年ぶりに正午の祈りを捧げるイスラム教徒(PHOTOGRAPH BY MUHAMMED ENES YILDIRIM, ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES)

それから数日後、米のラジオネットワーク「NPR」は、アヤソフィア内部でイスラムの礼拝が行われたと報じた。

トルコのエルドアン大統領は、アヤソフィアはこれからも宗教や国籍にかかわらず、あらゆる訪問者を受け入れると発表している。それでも、アヤソフィアの未来は不透明なままだ。ギリシャやロシアなどトルコの近隣諸国は、博物館としてのアヤソフィアは東西文化の交差点であり、キリスト教とイスラム教の共存を象徴する存在として、今回の決定を非難している。

ユネスコも「事前協議なしにアヤソフィアの地位を変更したトルコ当局による決定を深く遺憾に思う。世界遺産としての普遍的価値が保たれることを求める」との声明を発表した。世界遺産憲章においては、建物の状態を変更するには、トルコは事前にユネスコに通知をし、必要に応じて世界遺産委員会の審査を受けることが義務付けられている。

ただし、アヤソフィアが現役の礼拝施設として復活したとしても、それだけで世界遺産としての認定が取り消されるわけではないだろう。世界遺産リストに含まれる1000以上の登録地のうち、精神的・宗教的な性質を持つものは約20%にのぼり、その中にはバチカン市国やイランのイスファハンにあるジャーメ・モスクなども含まれている。

アヤソフィア(ギリシャ語で「聖なる叡智」の意)の建築を命じたのは、ビザンツ帝国皇帝ユスティニアヌス1世だ。当時この建物は、世界最大の屋内空間だった。モスクとなったとき、建物にはいくつかの変更が加えられた。

メフメト2世がオスマン帝国を統治していた1451年から1481年にかけて、イスラム教の信仰との一貫性をもたせるために、アヤソフィアの見事な芸術作品の多くは漆喰で覆い隠された。六翼の天使など、キリスト教関連の壮大なモザイク画は姿を消し、代わりに太く流麗なアラビア文字が刻まれた円盤が天井から下げられ、美しい大理石のミフラーブ(メッカの方角を示す装飾パネル)が設置された。

博物館としての役割を担うようになってからは、漆喰を丁寧に削り取って隠されたモザイク画を蘇らせるなど、大規模な改修が行われた。そうしたモザイク画の一部は、上部回廊沿いに見ることができる。そして今、この建物は再びモスクとなり、トルコ当局者は、イスラムの礼拝の時間は、中央ホールに描かれているキリスト教関連の装飾をカーテンで覆い隠すとしている。

イスタンブールの空に堂々とそびえるアヤソフィアは、スルタンアフメト地区中心部の、ブルーモスクの向かい側、トプカプ宮殿からも歩いてすぐの場所に位置している。もとの建物の建築当時、この教会のあまりの壮麗さに、人々は神の導きを受けて作られたに違いないと信じていたと言われる。

ここを訪れる人の多くは、その内部装飾のすばらしさに目を奪われるが、建物の外も一見の価値がある。アヤソフィアの4本のミナレット(尖塔)、小学校の噴水、時計室、宝物館などの要素は、このモスクらしい大胆な設計の象徴だ。オスマン帝国のスルタンたちの霊廟も、ぜひとも訪れたい。

現在もトルコで最も人気の高い観光名所であるアヤソフィアは、引き続き観光客を受け入れている。トルコ政府の最新の声明では、入場は無料で、礼拝の時間を除いてモザイク画はすべて公開されるという。建物の扉は礼拝の1時間前に閉じられ、30分後に再度開かれるということだ。

次ページでは、アヤソフィアだけではない、イスラム世界が生んだ美しいモスクの数々をご覧いただこう。その壮麗さに、思わず見入ってしまう。

ナショジオメルマガ
注目記事
ナショジオメルマガ