「男のスーツ、素材選びこそ醍醐味」石津祥介氏

ウィズコロナの時代、スーツはもっと自由に

――こちらの重厚なヘリンボーンのツイードスーツはどちらのものですか。

「どちらも1970年代のケントのものです。新鮮じゃない? 実はスーツほどおしゃれの幅が広いものはないんです。ブレザーとは違いますよ。ブレザーは制服ですから、皆でおそろいで着ることに意味がある」

グレーと茶色のヘリンボーンのスーツは微妙な色合いが独特だ

――このツイードの色が独特ですね。

「素材あっての色。この色合いだってツイードでしか出ない色です。白を掛け合わせて、グレーや茶色と混じり、濃くなったり、薄くなったり、微妙な色合いが出ます」

――男性のスーツはたとえネイビーの無地でも、微妙な濃淡から選べますね。

「丸の内のビジネスマンはたいてい、最初は無地から入り、課長になってストライプ、そこで止まる。強者(つわもの)の取締役がツイードくらいまで手が出るかどうか。社風もありますから着られないところもあるでしょう。でも、コロナショックでこれからはどんどん仕事の装いが変わるはず。ヘリンボーンのスーツをビジネスで着るのも挑戦心があって楽しいわけです」

「ビジネススタイルも大きく変わり、スーツも自由度が増す。面白い時代になりますよ」

――低価格チェーンであっても形はきれいですし、素材もいい。スーツ全体は底上げされている気がします。

「どこもそれなりにきちんとしたスーツを販売しています。気をつけるべきは買う側のサイズへの意識です。先日、2012年の第2次安倍内閣のときの安倍首相の就任会見を見ていたのですが、今見ると、サイズがずいぶん大きいと感じました。そのときはそれほど思わなかったのだけど」

――8年でスーツのサイジングでも微妙な変化が起きているんですね。

「女性のお化粧と同じではないかと思う。とっぴなお化粧はできないけど、時代の流れを少し取り入れて、行きすぎないように注意しながら、その化粧の中で自分の個性を表す。微妙に手を加える楽しみが、スーツにはあるわけ」

――若手の日本人テーラーも台頭しています。

「昔はテーラーといったらその道で10年、20年たたきあげたような人。腕はいいけど、変化は望めなかった。でもいまの若手のテーラーは服を勉強し尽くしている。だから最近、テーラーの服が非常によくなった、といわれるんでしょう。仕立てる人がいまの時代の洋服を知っているんだね」

――面白い時代なんですね。

「だから低価格帯のスーツ専門店だって、多様な素材のスーツを提案したらいいよね。ダークなビジネススーツ以外のバリエーションをそろえて、スーツは自由なんだと教えてあげる。いままでツイードのスーツは遊びとか、デート用でしたが、これからはビジネスOKという時代になってくるはず。面白い時代がきますよ。だって、85歳になった僕だって、いまだにスーツが楽しいのだから」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

石津祥介
服飾評論家。1935年岡山市生まれ。明治大学文学部中退、桑沢デザイン研究所卒。婦人画報社「メンズクラブ」編集部を経て、60年ヴァンヂャケット入社、主に企画・宣伝部と役員兼務。石津事務所代表として、アパレルブランディングや、衣・食・住に伴う企画ディレクション業務を行う。VAN創業者、石津謙介氏の長男。

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