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広がるマイクロプラスチック汚染 海からも空からも

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ナショナルジオグラフィック日本版

インド洋のモルディブ諸島には、1192の島がある。1992年、政府は、もうひとつの島を追加した。毎日500トンのごみを処分する埋め立て地として建造された人工島だ。

どこであれ、島の生活には避けられない2つの特性がある。消費財の大半が島の外から運びこまれること、そしてごみの大半が観光客によって生み出されることだ。モルディブでは、この2点が特に際立っている。

開発途上国であるモルディブに、国内の製造業はほとんど存在しない。政府の統計によれば、観光客1人が1日に出すごみの量は、首都マレの市民1人1日当たりのごみ排出量の2倍、他の200の島の住民の5倍に相当する。その結果、2019年、この小さな島国は、適正に処分されていないごみの1人当たりの量が世界4位になった。

そして今回、オーストラリア、フリンダース大学の海洋科学者たちによる調査研究で、モルディブのごみの恐ろしい現実を裏付ける統計が加わった。生物多様性に富む海域として有名なこの島々の砂浜や海岸近くの水域に、世界最高レベルのマイクロプラスチックが含まれているというのだ。

人口が多いナイファル島の22の地点で、フリンダース大学のチームは、海岸の砂やサンゴ礁がある浅い水域から多くのマイクロプラスチックを発見した。その量もさることながら、さらに心配な発見もあった。粒子の大半が、一帯にすむ海洋生物たちが食べる餌と同じ大きさだったのだ。

これは好ましいニュースではない。この海洋生態系には、1100種以上の魚に加え、端脚類からクジラまで900種以上の生物が暮らしている。170種もの鳥たちもやってくる。調査チームは71匹のモンガラカワハギを採集、そのすべての胃から、1匹あたり平均8本の繊維状プラスチックを発見した。

調査結果は、20年8月2日付で学術誌「Science of the Total Environment」に発表された。

「マイクロプラスチックのサイズは非常に重要です。とても小さな魚や無脊椎動物がマイクロプラスチックを体内に取りこみ、次に、より大きな魚がそれを食べるからです」と、フリンダース大学の保全生物学者で論文の著者の一人であるカレン・バーク・ダ・シルバ氏は説明する。

マイクロプラスチックの流れを追う

「どうすればプラスチック汚染を減らせるのか、それを理解するためには、その流れを知る必要があります」と、カナダのトロント大学の海洋生態学者、チェルシー・ロッシュマン氏は言う。

「プラスチック汚染の存在を知るだけでなく、これからは、プラスチックが集まりやすいホットスポットに移動する速さや、生態系を移動する間にプラスチックがどう変化するかを、把握しなければなりません」

初期の調査の多くは、海岸で見つかったり水面に浮いていたりする大きなプラスチックに着目していた。だが、プラスチックの小片は目立たないが広がりやすく、海溝の最深部から世界有数の高山に至るまで、事実上、地球のすみずみまで拡散している。マイクロプラスチックには極めて小さいものもあり、これらは風に乗って高く舞い上がり、地球を巡るちりの一部になっている。

ここ数年、科学者たちはあらゆる場所でマイクロプラスチックを追跡してきた。そして今、ロッシュマン氏が言う「マイクロプラスチック・サイクル」(マイクロプラスチックがどのように移動し、どこに蓄積し、移動中にどのように変化するか)を解明する方向へと研究が進んでいる。

マイクロプラスチックという用語は、5ミリ以下のサイズのプラスチック粒子を指し、基本的に2種類に分けられる。

一次マイクロプラスチックは、洗顔料などの日用品に用いられるマイクロビーズやプラスチックの原材料であるペレットなどで、意図的に小さく製造されている。二次マイクロプラスチックは、プラスチックの最大の長所のひとつである耐久性がもたらすものだ。もとは廃棄されたプラスチック製品だが、海で太陽光や波の力を受けて細かい破片に分かれる。その破片は、長い時間をかけてさらに小さくなっていく。これらは、数百年にわたって分解されずに残ると推定されている。

マイクロプラスチックが人体にどのような害をもたらすのかという研究も進められている。マイクロプラスチックは、飲料水や塩、その他の食物からすでに検出されているが、今のところ、人体への害は立証されていない。だが、魚や海水や淡水に生息する野生生物では、マイクロプラスチックが生殖機能を損ない、発育を阻害し、食欲を減少させ、組織の炎症や肝機能障害をもたらし、摂食行動を変化させるといった研究報告がある。

増える海中のマイクロプラスチック

15年に、世界の沿岸地域から海に流れこむプラスチックごみの年間量は、平均880万トンと推定された。米国の環境保護団体であるピュー慈善財団およびロンドンを拠点とする環境シンクタンク、システミックが先月発表した新たな報告書では、海へ流れ出るプラスチックごみのおよそ11%にあたる約140万トンが、タイヤ、製造用ペレット、繊維、マイクロビーズという4つの主要なマイクロプラスチックを由来とする。

もし、海へのごみの流入をすぐに止めたとしても、すでに海に流入したごみからマイクロプラスチックは生まれ続け、長年にわたって蓄積し続けるだろう。マイクロプラスチックは断片化し続けるため、現在、海にどれほど多くのマイクロプラスチックが浮いているかを算出するのはむずかしい。算出された値の多くは、海面上のマイクロプラスチックだけを対象としている。14年にモデル化された計算では、5.25兆~50兆個という数字が示された。だが、今年発表された新たな論文によれば、この試算値は少なすぎるようだ。

英国のプリマス海洋研究所、エクセター大学、キングスカレッジのチームと、調査船を提供した米バーモンド州のロザリア・プロジェクトは、大西洋両岸の沿岸の海水をサンプルとして採取した。調査チームは、過去の調査では採取されなかった、餌に似た極小のナノプラスチックや繊維を採取するために、網目が細かい網を使用した。「Environmental Pollution」誌に発表された今回の推定では、世界のマイクロプラスチックの量は12.5兆~125兆個とされた。これは、従来の試算の2倍以上にあたる。

「従来のサンプリング方法では、マイクロプラスチックの数を大幅に過小評価していました」と、論文の共同著者でプリマス海洋研究所の海洋生態学者であるマシュー・コール氏は話す。「十分に目が細かい網をつかえば、海の隠れた地図を明らかにできるのです。そうしなければ、この実態は目に見えません。それでも、これは海面のマイクロプラスチックだけの数で、海底に沈んでいるマイクロプラスチックは、今回の地球規模の推定には含まれていません」

世界中の海底にマイクロプラスチックが大量に沈んでいることを、科学者たちはかなり以前から認識していた。だが、海底での密度や分布の状況については、ほとんど把握されていなかった。しかし、激しい底流が、特定のホットスポットにマイクロプラスチックを集中させる重要な役割を果たしていることを、ドイツ、フランス、英国のチームが新たに発見した。海面で潮の流れに乗って集められたごみが浮遊して「ごみの渦」ができるが、その海底版といえるだろう。

調査チームがイタリアの西の地中海海底を精査したところ、深い海溝からも、これまでにない大量のマイクロプラスチックの堆積物が見つかった。1平方メートルに最大190万個ものマイクロプラスチックが薄い層をなしていた。

あいにく、これらのホットスポットは、海綿類や深海サンゴ、ホヤなどの主要な生息地でもある。これらはろ過摂食生物(水を大量に飲みこんで餌をこして摂食する)であるため、マイクロプラスチックには特に影響を受けやすい。

生物や農地にも影響

科学者たちは、どこから食物網へ入り込むのかを追跡しながら、淡水中や土壌中のマイクロプラスチックについても調査を続けている。

英国では、サウスウェールズ州の河川沿いの15カ所で、科学者のチームがムナジロカワガラスの糞と吐き戻しを詳しく調査し、淡水性無脊椎動物を餌とするこの鳥が1日に約200個のプラスチックを摂取していることを発見した。プラスチックが食物網の上位へ移動している証拠だ。この調査結果は20年5月、「Global Change Biology」誌に発表された。

中国農業科学院の研究者たちは、プラスチック製の覆いを使用する農法が収穫量に長期的な脅威をもたらす恐れがあることを突き止めた。この農法は、ビニールシートで畑を覆うことにより、湿度を維持し、雑草の生育を抑え、土壌の温度を上昇させるもので、収穫量を平均で25~42%増加させる効果がある。この方法は、中国全土の耕作地の約13%を占める小規模農家で広く行われている。半乾燥地帯や乾燥地帯では干ばつが悪化しているため、中国や世界各地で拡大している農法だ。

広く普及しているタイプのビニールシートは裂けやすく、時間と共に使用に耐えなくなる。「Global Change Biology」誌に発表された論文によると、収穫後にビニールシートを回収するならば、この方法は安全だと、調査チームは判断している。だが、調査対象となった中国の農家の66%は、使用済みシートは回収しないと答えている。中国の土壌には、50万トン以上のプラスチックが堆積していると、研究者たちは推定している。

プラスチック片は、土壌の構成と性質を変えてしまう。フタル酸エステルなどの添加物は、土壌汚染をもたらすことが確認されている。プラスチック片を含む土壌で育つ穀物は、収穫量、作物の高さ、根茎の重量が低下する。この調査では、プラスチック汚染によって、すでに中国の綿の収穫量が減少していると報告している。

大気中を移動するマイクロプラスチック

マイクロプラスチックがどのように世界に広がるかを解明する研究では、以前は、海に焦点が当てられていた。地球規模のちりの動きは数十年にわたって研究されてきたが、ちりが「大量のマイクロプラスチック」を運んでいることがわかったのはごく最近のことだ、とロッシュマン氏は言う。

米ユタ州立大学の科学者、ジャニス・ブラーニー氏は、風が窒素やリンなどの栄養素をどのように米国西部に拡散しているかを調べていて、プラスチックに遭遇した。「ちりと、ちりが遠く離れた生態系にどのように栄養素を運ぶかを、私は研究しています」

だが、11の国立公園と自然保護地域で採集したサンプルを顕微鏡で調べている時、彼女は、小さなプラスチックの繊維を見つけてショックを受けた。

「最初は、自分がサンプルを汚染してしまったのだと思いました」と、ブラーニー氏は言う。「それから、これは驚くことではないと気づいたのです」

米国西部の自然保護地域と国立公園に、年間1000トン以上のマイクロプラスチックが舞い落ちていると、同氏は結論づけている。「Science」誌に発表された分析では、マイクロプラスチックがさまざまな高度で大気中を移動していることが明らかにされた。大きな粒子は、多くの場合、近距離しか移動せず、雨が降ると落下する。小さく軽い繊維は、大陸を横断して長距離を移動し、地球規模のちりの流れの一部となる。そして、多くは乾燥した天候の時に地面に落ちる。

「プラスチックは、空からどこにでも落ちてきます」とブラーニー氏は話す。「私たちはこの問題に気づき始めたばかりですが、新しい問題ではないということを、より多くの人に知ってほしいと思います。この状況は改善せず、むしろ、もっと悪化するでしょう。私たちが知らないことは非常に多く、どこにでもあるプラスチックの影響を完全に理解するのは、とても難しいのです」

(文 LAURA PARKER、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年8月28日付]

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