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ソニーがエピックに2.5億ドル出資

今回のバーチャルイベント開催の目的をエピックは現時点で明かしていないが、フォートナイトユーザーの拡大を狙っているのは確かだろう。米津のイベント目当てに初めてフォートナイトをダウンロード、ログインしたというユーザーは一定数いたはずだ。

さらにイベント開催期間中に同ゲームにログインしたユーザーには、米津の最新アルバム『STRAY SHEEP』にちなんだ「バナーアイコン」というアイテムがプレゼントされた。こうした限定アイテムは、イベント終了後もゲーム内で宣伝効果が維持できるのがメリットだ。

一方、音楽業界から見ても、映像配信プラットフォームとしてのゲームには期待感がある。というのも、情報量が多く、アクセスも集中しがちなライブ配信やバーチャルイベントでは、配信側の設備や視聴者側の視聴環境に映像品質が大きく左右される。パソコンやスマホ向けの動画配信プラットフォームでは、環境次第でタイムラグが生じたり、映像がかくかくとコマ落ちしたりすることも少なくない。

その点、常に世界中からユーザーが集まるオンラインゲームのプラットフォームと、高画質のゲームも処理できるゲーム機やゲーミングPCならば、処理能力は十分。ゲーム内には課金機能もあるので、会場内で楽しむグッズなどの“物販”をバーチャル空間で再現することも可能だろう。

3D空間でのアバターの動きや多彩なエフェクトも遅延なく表示された(C)2020, Epic Games, Inc

事実、プラットフォーム化するフォートナイトの将来性に目を付けた企業もある。その1社がソニーだ。20年7月、ソニーはフォートナイトの運営会社であるエピックに2.5億ドル(約268億円)の出資を決定した。

これについて、ソニーの吉田憲一郎会長兼社長は、「『フォートナイト』ほど革新的なエンターテインメント体験の例は他にない」と絶賛。「ゲームの分野に限らず、急速に発展しているデジタルエンターテインメントの領域で、ユーザー、そして業界の皆様に喜んでいただけるような価値を提供していく」として、ゲームの枠を超えた協業に積極的な姿勢を見せている。

全世界から3億5000万人が集まり行き交うフォートナイトという空間が、バーチャルイベントの場として急成長する可能性は高い。

(ライター 大吉紗央里)

[日経クロストレンド 2020年8月26日の記事を再構成]

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