歌姫・安斉かれん やるなら楽しんだもん勝ち、かな
歌手・浜崎あゆみの自伝的小説をもとにしたドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)は、1990年代の音楽業界を舞台に、主人公のアユと敏腕プロデューサー・マサの恋模様を絡めたサクセスストーリー。眼帯をした秘書役・田中みな実や、水野美紀ふんする羽根をまとった奇抜なボイストレーナーなど、強烈なキャラクターの登場に放送開始直後からネットがざわつき、話題を集めた。主役に抜てきされたのは、歌手デビューから1年足らずの安斉かれん。演技未経験の歌姫は、ドラマがいきなりバズるのを目の当たりにし、不思議な気持ちだと目を丸くした。
「ドラマのお話をいただいたときは、『私でいいのかな』って。不安もありましたが、今後に生かせると思い挑戦することにしました。テレビに大写しになる自分を見たことも、Twitterでトレンド入りしたこともなかったので不思議な気持ちでしたし、今もふわふわした感覚のままです。
撮影前には、週3日以上のお稽古が数カ月続きました。初めは、恋愛のシーンでふと素に戻って恥ずかしくなることもありましたが、一緒に練習する同世代の皆さんがパッと切り替えて演じているのを見て、恥ずかしがってる場合じゃないと思いました。
セリフは意外に苦労しませんでした。歌詞や譜面を覚える経験が生きたんだと思います。困ったのは『泣く』シーン。私は普段から泣くことが少ないほうなので、恋愛で涙を流すシーンを表現することがとても難しかったです。三浦翔平さんは『泣く演技に役立つから』と『世界の中心で、愛をさけぶ』を勧めてくれました。ほかにも演技の面でたくさん助言をしてくださり、『頑張ってるご褒美』とコーラまでいただきました(笑)
市毛良枝さん演じる祖母とのシーンは、私もおばあちゃん子なので自然に気持ちが入りました。アユがニューヨークにレッスン留学する前に即席味噌汁をもらう場面は、ほっこりしましたね。他にも印象に残る場面ばかりです。
水野美紀さんのアドリブには圧倒されるばかりで、『のしをつけてジャパンにつき返すわよ!』と怒鳴られたときには、つい吹き出してしまいNGに(笑)。皆さん、優しくて楽しい現場だったので、今は終わるのが寂しい。初めて出演させていただいたドラマが『M』で本当に幸せです」
2019年5月に『世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた』でデビューし、7月22日に5thシングル『僕らは強くなれる。』をリリース。これまで全曲を作詞している。学生時代は、サックスや鍵盤、お囃子など幅広く音楽に触れていた。
音楽の目覚めはストーンズ
「音楽に目覚めたのは、父が連れて行ってくれたザ・ローリング・ストーンズのライブがきっかけです。バンドメンバーがサックスを吹いていて、かっこいいなと。中学で吹奏楽部に入りサックスを担当し、洋楽ばかり聴いていました。
エレクトーンも習っていて、高校1年のときに弾きながら歌えるようになりたいと思い始めてからJ-POPも聴きました。作詞を始めたのもその頃。日記を書くような感覚で、気になった言葉をスマホにメモしています。
歌詞はいただいたサウンドに合う言葉をストックから引っ張り出して書く感じです。『僕らは強くなれる。』は、歌を始めたばかり、確か3曲目くらいに書いたもの。中学の部活とか高校時代の気持ちを書いていくうちに、自然と応援歌になりました。その時にしか感じられない感情を大切にしつつ、背伸びをしすぎず思いを押しつけることがないようにしました。
歌って、聴く人の思い出になると思うんです。Instagramとかで『今日、かれんちゃんの曲を聴きながら告白しました』ってコメントをもらうと、届いたのが実感できてうれしくなりますね。
もともと人前に出るのは得意じゃないので、向き不向きで言えば向いてないのかも。でも、人とのつながりと運もあって、こうして歌わせていただいていることはすごくありがたいですし、やると決めたからには楽しんだもん勝ちかなって(笑)。もし落ち込んだとしても、それは歌詞を書くときに取っておく。とことん落ちて、書ける歌詞もあると思うので。
目標は……特に立てていません。違った方向に進んでいると思うと不安になるから。デビュー前から言い続けているのは、音楽を楽しむということ。自分が楽しまなければ、聴く人も楽しめないはず。いつかは、その気持ちをシェアできるライブをやってみたいです」
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2020年8月号の記事を再構成]
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