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原点はブラジル滞在経験、心躍る食描く 角野栄子さん

食の履歴書

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NIKKEI STYLE

「魔女の宅急便」で知られる作家の角野栄子さんは自称「根っからの食いしん坊」。作品にも心躍る食べ物を描いてきた。原点には戦時中の食糧難の記憶がある。戦後、結婚してすぐに渡ったブラジルでは料理を介した印象深い出会いがあった。

小さいころ、父が白菜の漬物でご飯をくるっと巻いて口に入れてくれた。「自分でやるよりずっとおいしいのが不思議でね」。5歳で実母を亡くした。心細かった幼年時代、父から宮本武蔵や桃太郎の話を聞くのが楽しみだった。

東京・深川の生まれ。夏休みには家族で房総半島の興津まで出かけ、バケツいっぱいの貝を食べた。巻き貝をゆで、1人1本、布団針を持たされる。貝の身を引っ張り出して次から次に口に放り込む。「サザエよりは硬くないけど、こりこりっとして、みんな夢中で食べた」。東京で食べるハマグリなどと全く違って、強烈な潮の香りがした。あれはいったい何という貝だったのか、今も分からない。

他に忘れられないのがもぎたてのトマト。水を張ったタライで冷やしたのをパクリ。桃や梨も新鮮だった。「今考えるとぜいたくだったわね」

素朴でも上質だった食事の光景が一変したのは、小学校に入った後だ。年末に太平洋戦争が始まり「潤沢にあった食べ物が知らない間になくなる」。好きなだけ食べていたおせんべいは「1人3枚まで」。あっという間に消えた。

配給の食糧では足りないから買い出しへ。コメや大豆に小豆などを背負って帰る。「警察に見つかったら没収。重い荷物を持っていたのに。それが悲しかった」。卵が手に入っても1個を2人で半分こ。おなかが満たされることはなかった。絵日記には「スイカを食べた」など食べ物のことばかり。「よっぽどの食いしん坊だったと思う」。いつも飢えていたから食が一大事になった。まれに口にできたキャラメル1粒の甘さは今でも覚えている。

10歳で終戦。外来の食文化に目をみはった。近所の菓子店のドーナツの自動製造機は米国製で、どろどろの生地が油の中で揚がり、一個一個、出口からドーナツが出てくる。「マジックだと思った」

24歳の時、新婚の夫と新しい世界を見たくてブラジルへ。住んだのはサンパウロの下町だった。同じアパートのイタリア系の家族の部屋に毎日のように行き、よくトマトソースのスパゲティをごちそうになった。大量のトマトやニンジン、セロリなどでとろけるほど煮込んだソースは絶品。日本ではケチャップであえたようなものしか見たことがなかったから、鮮烈だった。

忘れられないフェイジョアーダ

ブラジルの国民食フェイジョアーダは忘れられない。塩漬けの豚肉と黒い豆を何日もかけて煮る。フェイジョアーダパーティーに誘われ、知り合ったのは画家や映画監督の卵たち。「自由で芸術的な人たちと、本当に濃いお付き合いだった」。ブラジルでの出会いや経験は作家として歩む大きな土台を作った。

2年間の滞在後、帰国。大学の恩師に勧められ1970年に体験を基にした「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」で作家デビュー。少年のモデルは例のトマトソースが得意な女性の一人息子だ。

スパゲティの記憶は、童話「スパゲッティがたべたいよう」にもなった。おばけのアッチが、おいしそうな匂いにつられてたどり着いた先、女の子が「おひさまいろのトマトソース」のスパゲティを食べている。食いしん坊のアッチの物語はシリーズ化し、毎作、あっと驚く料理が登場する。「いもむしグラタン」「おばけピザパイ」……。「おばけが作るものだからおかしな食べ物を入れるの」

こだわりは必ず再現できること。「だって子どもたちがお母さんに『これ一緒に作って』と言って作れないんじゃ困るじゃない」。こんにゃくをいもむしに見立て、ピザはソーセージやピーマンなどの具材で顔や絵を描く。新作には何を登場させようか「しょっちゅう考えている」。

2001年、鎌倉へ引っ越した。食事のほとんどは自分で用意する。キュウリはザクザク切って、酢じょうゆとゴマ油などに漬けておけば、食べきれる。トマトは砂糖を薄く振りかけておくと高級品のように甘くなる。キャベツの古漬けは「ギョーザに入れると最高よ」。長年、仕事と子育ての主婦業を続けてきた知恵と工夫が詰まってる。

85歳の今も新作のため机に向かう日々。「どんな話になるかしらね」。200以上の作品を発表してきたが、今もワクワクしながら書き続けている。

隠れ家カフェでワッフル

地元、鎌倉のカフェ「Rimini」(電話0467・84・7012)は「私の隠れ家」という。6月に開店したばかりで、カウンター席のみの小さな店だ。紅茶とコーヒーのほか、ワッフルやホットサンドイッチなどの軽食が味わえる。テークアウトすることも多い。

お気に入りはあずきのワッフル(700円)。「やわらかくておいしいの」。ワッフルにあずきとアイス、紅茶入りの自家製シロップをかけた品。口に運ぶとほのかに紅茶の香りが広がる。「ワッフルは外はサクサク、中はしっとりとした焼き加減になるよう気をつけている」と店主の広田理沙さん。スリランカ産の紅茶にこだわる。「日本の軟水に合いやすく、産地によって様々な香りが楽しめる」。輸入して間もないフレッシュな茶葉を扱う。

最後の晩餐 食欲がないだろうから、真っ白なおいしいご飯と、ぬか漬けかな。おいしいぬか漬けじゃなきゃだめ。とびっきりのじゃないと。ツヤッツヤのナスがいい。あとミョウガ、キャベツ、それからキュウリの浅漬けもあるといいな。

(関優子)

 かどの・えいこ 1935年東京生まれ。59年から2年間、ブラジルに滞在。70年作家デビュー。85年に「魔女の宅急便」を刊行、野間児童文芸賞などを受賞する。2018年国際アンデルセン作家賞受賞。「ズボン船長さんの話」「小さなおばけシリーズ」など著書多数。

[NIKKEIプラス1 2020年8月29日付]

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