獲得免疫も飲酒の影響を受ける
では「最後のとりで」ともいえる第3段階の免疫システムはどうなのだろう?
「自然免疫でも病原体が撃退できなかった場合に働くのが、免疫システムの最終兵器ともいえる『獲得免疫(適応免疫)』です。これはマクロファージのように常に体の中をパトロールしているものではありません。そのため、病原体の感染から数時間で自然免疫が活性化するのに対し、獲得免疫が活性化するのには数日間のタイムラグがあります」(安部さん)
最終兵器というだけあって、そのシステムは実に巧妙かつ強力だ。
「まず、自然免疫として働く樹状細胞が病原体の情報をつかみ、それをリンパ球の一種であるT細胞へと渡します。樹状細胞はいわば“スパイ”のようなものです。病原体の情報を渡されたT細胞はその病原体に適した攻撃をするよう、さまざまな細胞に働きかけます。中でもB細胞は優秀で、病原体を攻撃する『抗体』を作り出します」(安部さん)
自然免疫との大きな違いは、獲得免疫には「免疫記憶」があることだ。「免疫記憶とは、簡単に言うと、一度かかった感染症にかかりにくくなる、またはかかっても軽症で済むというものです」(安部さん)
樹状細胞はスパイで、T細胞は司令官で、B細胞が攻撃するミサイルを作り出す…。目に見えないところで、私たちの体を守ってくれている高度なシステムがあるのだ。これだけ複雑で高度なのだから、「アルコールくらいへっちゃらなのでは?」と思いきや、そうもいかないらしい…。
「自然免疫の段階で、マクロファージなどの働きがアルコールによって抑制されてしまうと、スパイ役の樹状細胞の働きが鈍ると言われています。またT細胞やB細胞をはじめとするリンパ球に対し、アルコールが何らかの影響を及ぼすという動物実験のデータもあります」(安部さん)
なるほど、T細胞やB細胞などが働く獲得免疫も、アルコールの影響を逃れられないのだ。
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残念ながら、免疫の防御システムの3段階すべてに悪影響を及ぼすアルコール…。やはりコロナ禍は、いつも以上に酒を控えたほうがいいのだろうか。
しかも、恐ろしいことに、安部さんによると「免疫に対するアルコールの影響は、今回、お話ししたような直接的なものだけでは終わらず、飲酒が原因となって起きるほかの病気によって、2次的な影響も考えられます」という。
耳を覆いたくなるような怖い話だが、聞かないわけにはいかない。そして、それらを踏まえたうえで、「免疫力を下げない飲み方」はないのだろうか。次回に続く。
(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト、図版制作:増田真一)
[日経Gooday2020年8月19日付記事を再構成]
