「実は、3段階いずれにも、アルコールが直接的な影響を与えます。ヒトの免疫にとって、お酒は好ましくないものなのです」(安部さん)
な、なんと…。
「それぞれの詳しいメカニズムを順番に見ていきましょう。まず、第1段階の『自然バリア』は、体のさまざまな箇所にあり、大きく3つに分類されます。1つは涙、汗、唾液、尿などの物理的障壁です。また目には見えませんが、腸管にある絨毛(じゅうもう)、気道にある繊毛(せんもう)もまた、体内へ侵入しようとする病原体を外へと押し出す運動を常にしています。風邪をひいて痰が出るのは、繊毛の働きによるものです」(安部さん)
病原体の侵入を防ぐ「自然バリア」は3種類

こう聞くと、自分の汗や涙まですべていとおしくなる。ほかにはどんなバリアがあるのだろうか。
「2つ目のバリアは化学的障壁です。胃酸などの粘液に含まれる酵素や酸性物質、皮脂に含まれる脂肪酸や乳酸、また体の表面に存在する抗菌ペプチドがこれに当たります」(安部さん)
そして3つ目は「微生物学障壁」。「これは、皮膚や腸などに存在する常在菌を指します。やたら顔を洗ったり、風邪をひいて少し具合が悪いと抗生物質を飲んでしまう人がいますが、こうしたことを考えると『もったいない』と思いますよね。私自身、顔はあまり洗わないようにしています」(安部さん)
風邪をひいて処方された抗生物質を飲んだのはいいが、下痢をしてしまうことがあるが、安部さんによると、この現象により「ありがたい常在菌が減ってしまう」のだという。
「若い世代は自然バリアがしっかりしているため、病原体に強いのです。新型コロナを例にとっても分かるように、若い世代は感染しても重症化しにくいですよね。これは自然バリアがしっかり働いているためと考えられます。ただし個人差があるので、『若いから絶対に重症化しない』とは言い切れません」(安部さん)
汗や胃酸、常在菌などによって守備が固められている自然バリア。アルコールはこれらにどのような影響を与えるのだろうか。
「例えばウオッカのように、のどがチリチリするようなアルコール度数の高いお酒は注意が必要です。こうしたお酒は、のどの粘膜を傷つける恐れがあるからです。粘膜に傷がつくと、免疫力は低下します」(安部さん)
左党の中には、ウイスキーやウオッカがもたらす、あのチリチリとした刺激がたまらないという方も少なくないだろう。そのチリチリこそが粘膜を傷つけているとは知らなかった。
アルコールは「マクロファージ」を混乱させる?
皮膚や粘膜のちょっとした傷や乾燥などがあると、病原体が自然バリアを突破して体内に侵入する。次の第2段階では、病原体を貪食するマクロファージという“刺客”が用意されている。
「第2段階である『自然免疫』で大活躍してくれるのは、『マクロファージ』と呼ばれる病原体をパクパクと食べてくれる食細胞です。マクロファージは自分の中に病原体を取り込んで死滅させるだけではなく、サイトカインという物質をまき散らします。サイトカインにより、血管内から好中球(白血球の一種)をはじめとする援軍が呼び込まれます」(安部さん)
そして、こうした自然免疫の働きにより、熱や腫れなどの「炎症」が起きる。
「自然免疫」により炎症反応が起きる

「炎症が起きると、結果として病原体が弱ります。分かりやすく言うと、風邪をひくとのどが腫れたり、鼻水が出たりしますよね。あれはまさに、のどや鼻で炎症が起き、自然免疫の力によって病原体を退治しようとしているのです。ですから、既往症のある方や高齢者はさておき、若い方は自然免疫がせっかく働いているのですから、少しのどが痛いくらいで薬を飲んでしまうのは、もったいないと私は思いますね」(安部さん)
そして安部さんによると、アルコールはこの食細胞であるマクロファージにダメージを与えてしまうという。
「アルコールがマクロファージに直接働いて混乱させ、機能を低下させたり、働きを抑制させると考えられています。特にだらだらと長い時間飲むほど、その作用は大きくなる傾向が強いと言われています」(安部さん)
酒飲みからすれば、この時点で恐怖を感じるのだが、まだほかにもある。「新型コロナウイルスをはじめとするウイルス感染の場合、サイトカインの一種である『I型インターフェロン』にまで影響を与えてしまうのです。I型インターフェロンは、ウイルスに感染した細胞の防御機構を活性化する働きがありますが、アルコールはI型インターフェロンの産生を抑制するといわれています」(安部さん)
新型コロナの脅威が騒がれている現在の状況で、ウイルスから身を守ってくれるI型インターフェロンにまで影響を与えるとなると、グラスを持つ手が止まってしまいそうだ(涙)。