家政夫ナギサさん 管理職世代も学びたい見守る包容力

火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)が好評のうちに最終回を迎えました。このドラマは、製薬会社の医薬情報担当者(MR)として仕事一直線のアラサー女子の主人公・相原メイが、苦手な家事をサポートしてもらうためにおじさん家政夫・ナギサさんを雇うことから巻き起こるハートフルラブコメディー。

仕事はできるが、生活力ゼロの主人公

(イラスト:川崎タカオ)

家事力ゼロのアラサー独身女子のメイが仕事に恋に奮闘する姿が多くの視聴者の共感を呼び、最終回も19.6%と番組の最高視聴率を更新し、有終の美を飾りました。

何事にも一生懸命なメイを多部未華子さんが、癒やし系のおじさん家政夫・ナギサさんを大森南朋さんが演じ、ネットではお二人の演技に称賛の声が相次ぎました。

多部さんの愛らしい雰囲気はもちろんのこと、これまでドラマ『ハゲタカ』(NHK)や映画『アウトレイジ 最終章』でのこわもてな役柄の印象が強い大森さんに対し「(意外にも)癒やし系のナギサさんがぴったりはまっていた!」という声が多数上がっており、大森さんが演じたナギサさんはまさに適役だったように思います。

おじさん家政夫のナギサさんは、完璧な家事の業務をこなしつつ、仕事で疲れ果てて帰宅したメイを内助の功のごとくサポートするとともに、仕事に対するさりげないアドバイスをくれる包容力あふれる人物です。その姿はまるでお母さんのようでした。

それもそのはずで、実はナギサさんの夢は「お母さんになること」。

夢はお母さんになること

ナギサさんがそう思う理由には、彼が大手製薬会社のMRとして優秀な成績で活躍するビジネスパーソンであった時代に、お母さんのような包容力で部下を支えることができなかったことへの後悔の思いがありました。

そうした経験から、ナギサさんは家政夫の仕事を通して、人のために尽くすことを信条とし、誰かや社会のために貢献できることが、自身のやりがいにもつながるという利他意識と仕事観を持つようになります。

そのナギサさんは50歳。社会ではまさに管理職世代です。

この世代が数多く登場するのが同じくTBS系で放送されているドラマ『半沢直樹』です。ナギサさんと同世代の人物が織りなすドラマとは言え、キャラクターや仕事観は、ナギサさんとは正反対の仕事人ばかりが登場します。一言で表現すれば「グループ組織内の自分の立場だけにこだわり、利他意識や包容力のかけらもない」悪人キャラばかり。

その悪人キャラたちと対峙するのが主人公の半沢直樹なわけですが、彼にはナギサさんの持つ利他意識や包容力に通じるものがあるように感じます。

それを象徴するメッセージが『半沢直樹』第4話、銀行から証券会社に出向していた半沢が部下たちを前に自身の考えを述べるシーンに託されていました。

「胸をはって、プライドを持ってお客様のために働いてほしい」という利己主義でない顧客本位の仕事観を伝える熱いメッセージは、20代から40代の視聴者にも響いたようです。ツイッター上でも賛同する声が数多く見受けられました。

半沢は自分たちの世代について「自分たちのためだけに仕事した連中がバカげたバブルを招いた」と評していましたが、同世代とは言え、ナギサさんは全くそのくくりには入らないでしょう。前線で働く若い女性をサポートするナギサさんのスタンスは、世代や性別を問わず、今の時代を生きる多くの視聴者に受け入れられやすいものでした。

利他意識と包容力の高さ

今は、リモートワークが増え、営業手法や働き方、組織での立ち回り方など、いずれも既存のやり方では通用しにくい時代を迎えています。半沢直樹に登場する管理職世代のような自分とその周辺だけに通用すればいいという狭い視野では、ビジネスにおいて重要な「顧客本位」というスタンスを見失います。管理職世代は、常にその環境変化に順応できる能力が必要とされる時代を迎えているのです。

とは言え、個人の仕事スキルも高く、利他意識と包容力もある……。これではまるでスーパービジネスパーソンすぎて、とても高い目標のように感じます。

ですが、この社会環境だからこそ、これまで自分の椅子から見えていた視野にとらわれることなく、別の視座を持つことで、新たに見えてくる世界があるのかもしれません。事実、社会が変化する中で、別の視点から新たなビジネスが生まれた事例を耳にするようになりました。

ドラマの中の50歳のナギサさんは「家政婦は女性の仕事」という既存の価値観や線引きにこだわらず、家政夫として顧客のニーズを読み解きつつ、スキルの高い業務に励み続けてきました。

同時に、彼の利他意識と包容力が、様々な物事を順調に進展させる様子は、これからの時代に求められる一種のミドルエイジの姿でもありました。

「お母さんのような包容力を持つ男性上司」「お父さんのような包容力を持つ女性上司」どちらも魅力的な人物像です。もちろん「お父さんのような包容力を持つ男性上司」「お母さんのような包容力を持つ女性上司」もしかり。

目指す上司像は様々であり、これからの時代は男性であれ女性であれ、より自由度と多様性が増すなかで形成されていくのかもしれません。

お母さんのように仕事のデキる男・ナギサさんからはそんな気づきを得ることができました。

鈴木ともみ
経済キャスター。国士館大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。近著に「資産寿命を延ばす逆算力」(シャスタインターナショナル)がある。
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