コロナ禍で広がるメタノール中毒死 世界で最多ペース

日経ナショナル ジオグラフィック社

密造酒の問題は近年、メディアの注目を集めている。インドネシア、メキシコ、ドミニカ共和国で、メタノールの混入した酒を飲んだ海外旅行客が、病気になったり死亡したりした例があったからだ。

アルコールの販売が禁止されている国では、酒を入手するには、密造酒がはびこる闇市場で買うしかない。一方で、密造酒への転換を防ぐ目的で、工業用に販売されている純エタノールにメタノールが添加されている場合もある。だがこれが裏目に出て、今回のような問題が起きている可能性もあると、ハッサニアン=モハダム氏は言う。

消毒液にもメタノール混入

アルコールの販売と流通に関する規制が厳しい米国では、メタノール中毒は他国よりはるかに少ない。だが米国では、貧困層やマイノリティーに偏ってメタノール中毒患者が発生していると、米ニューメキシコ州毒物・薬物情報センターのスーザン・スモリンスケ所長は言う。

スモリンスケ氏や米疾病対策センター(CDC)の疫学者らのチームが、ニューメキシコ州とアリゾナ州で調査したところ、5月1日から6月30日までの間に15例のメタノール中毒が発生していたことがわかった。このうち4人が死亡、3人に視覚障害が残った。7月にはニューメキシコ州でさらに4人が入院した。

すべての例で、メタノールが混入したメキシコ製のエタノール系手指消毒液が関係していた。背景にはコロナ禍がある。新型コロナのパンデミックが起きたことで、すでに逼迫していたエタノールは手指消毒液に転用された。さらに両州がロックダウン(都市封鎖)されたせいで、普通に酒を購入することがさらに難しくなったアルコール依存症の人たちは、街角の店やガソリンスタンドで見つけた安い手指消毒液を飲むに至ったのだ。先ほどのメタノール中毒患者のほぼ全員が、アルコールの問題を抱えた21~60歳の男性だった。

メタノールの混入した消毒液を皮膚に付けるだけでは、おそらく大した問題にはならないことを踏まえると、危険なのは主に経口摂取した場合だと、スモリンスケ氏は付け加える。「100%のメタノールに(手を)完全に浸した場合でも、有毒な量を吸収するまでには、約6時間もかかります」

ハッサニアン=モハダム氏によると、イランにおけるメタノール中毒の壊滅的な大流行は、ここ数週間で鈍化した。だが、メキシコ、インド、インドネシア、ドミニカ共和国をはじめ、世界の他の場所ではメタノール中毒が急増している。SafeProof.orgのカンラー氏が収集した報道からは、カンボジアからトルコや南アフリカに至るまで、様々な場所で密造酒の押収が増えている実態が浮かび上がる。その多くが、メタノールが混入した偽造品だ。

オスロ大学病院のホブダ氏は、今回の出来事でメタノール中毒に対する注目が世界的に高まることを願っている。また、メタノールが混入したアルコールを調べるための、安価で信頼性の高い検査器具の生産に拍車がかかることも期待している。

(文 CARRIE ARNOLD、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年8月24日付]

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