自宅で5本試着、LINEで接客 眼鏡通販が使いやすく
新型コロナウイルスの影響で進化したのが、ECの機能だ。アパレル分野でも、試着しないとわからないというECの欠点を補うサービスが続々登場し、知名度を上げている。家にいながら似合うメガネを作れる「オーマイグラス」、オンライン接客システム「スタッフスタート」を取り入れたAOKIの取り組みを取材した。
LINE相談と試着サービスが秀逸な「オーマイグラス」
デジタルフィッティングやバーチャル試着など、アパレル業界ではEC比率を上げるために様々な創意工夫がなされている。その中で、オンライン上の「接客」を進化させることで、買い物を促す新しいタイプのECが次々と誕生している。
手元のメガネに合わせ、商品選びから購入までウェブで完結するのが「オーマイグラス」。2012年に、まずECサイトを立ち上げ、14年に直営店をオープンしたベンチャー企業だ。今では、日本最大級のメガネECサイトに成長し、東京や大阪などの大都市を中心に全国8店舗に拡大している。
最大の特徴は、5本のメガネを5日間、ゆっくり自宅で試着できるサービスだ。さらにLINEチャットで自分に似合うメガネをプロに相談できるサービスがあり、2つを組み合わせることで、リアル店舗にも無い利便性が生まれている。サイトに並ぶ約1万種類の商品から選べる選択肢の広さに加えて、自宅での試着ならいろいろな服装でコーディネートを試せる。
注文の仕組みはシンプルで分かりやすい。「メガネの形」「価格帯」「顔型」などの条件でフレームを絞り込み、5本まで選択。数日後に自宅にフレームセットが届いた。ビジネスで使いやすい黒色を中心に、普段は選択肢に入らない赤いフレームを入れ込んでみた。店舗では人目を気にしてできない選び方もできるのがいい。
気に入ったものがあれば、ECサイト上でチェックを付け、レンズの選択に進む。既にメガネを持っている場合は、試着商品と一緒に送付することで、同じ度数情報で作製してもらえる。送れるメガネを持っていなければ、医療機関で測定した度数情報を登録するか、オーマイグラスを含む近隣のリアル店舗で検眼した結果を使うこともできる。返却後、レンズの入ったメガネが郵送されてくる、という流れだ。試着したすべての商品を返品する場合は、手数料1650円(税込み)を支払う必要がある。
レンズは一人ひとり検眼し、それに合わせて加工する必要がある。これがECの課題だった。その検眼工程のハードルをできる限り下げたことが奏功した。
ECサイトの売り上げは、ここ数カ月で2倍に伸びた。社長の清川忠康氏は緊急事態宣言下の状況を振り返り、「自宅で過ごす時間が増え、コンタクトレンズよりもメガネで過ごす人が増えたのでは」とみている。
LINEチャット相談では、店舗で働くスタッフがメガネ選びの相談に乗ってくれる。試しに、「仕事用のシンプルなメガネを探している」と相談を持ち掛けたところ、数十分後に「かけ心地の軽い、軽めのメタル製フレームがおすすめ」と返信が来た。商品コードが分かる具体的な一本も提案してくれ、選ぶ手間を減らせるのが助かった。文字だけでなく、顔や服の写真を送っても応えてくれる。
オーマイグラスでしか買えない商品もある。「ネット販売がメインで販売効率が良いため、リーズナブルな価格で提供できる」と清川氏。国産のプライベートブランド(PB)の「Oh My Glasses TOKYO」「TYPE」などを展開。PBは、売り上げの半分以上を占めるという。特に軽くて耐久性や装着感に優れたベータチタン製フレームや、本田圭佑氏がサポートするサングラスブランド「PAGE」が人気を博す。
オンライン接客システムでECが1.5倍に伸びたAOKI
「バニッシュ・スタンダード」が展開する、ECサイトにオンライン接客を組み入れるサービスが、「スタッフスタート」。主要アパレルのほとんどが導入し、オンライン上で月間約8000万円も売り上げる「スター販売員」も誕生している。
休業要請や営業時間短縮などでリアル店舗が減収を受ける中、5月にAOKIもスタッフスタートを取り入れ、同月のEC売り上げは3月の1.5倍に増加した。老舗紳士服メーカーとして全国に519店舗(20年3月時点)を構え、それぞれにビジネスに精通した着こなしのプロを抱える強みを生かし、ECを伸ばす策に打って出た。
本物のモデルが着用した写真では、自分事として捉えにくいケースも多い。だが、AOKIのECサイトで「スタッフスナップ」をクリックすると、選ばれたスタッフがモデルとなった写真が並ぶ。ネット通販事業部の林亮介氏は、「より身近なスタッフの感想を読めば、お客様が購入しやすくなると感じる」と話す。例えば、身長が低い女性はパンツスタイルを敬遠しがちだが、151センチのスタッフが積極的に提案しているのを見ると、「意外に着られるかも」と背中を押される、といった具合だ。
性別・身長で検索すると、自分の体形に近そうなスタッフをすぐに発見できた。自分に近い体形の人のコーディネートのポイントや着心地は参考になる。それぞれに「ジャケットとネクタイの合わせ方」、上下を組み合わせる「王道ジャケパンコーデ」、「清涼感が抜群」、「抜群のストレッチ性でゴルフなどに活躍」などのワードがあり、より商品を想像しやすくなっている。
スタッフスタートの導入によって意外なヒットもあったという。若手スタッフが、45歳以上の男性向けだった「ノルマンディーリネンジャケット」を着たところ、20~30代に売れ出したのだ。男性は、ビデオ会議などのシーンで活躍するポロシャツ(ビズポロ)を勧めるスタッフが多くいて、売れ行きも上々。従来は動きの悪かった女性用アイテムでは、カットソーやセットアップのスーツが売れ始めた。
始めて1カ月、スター販売員誕生のきざしが見え始めた。男性では、東京練馬区・平和台店の20代店長の売り上げが好調だ。投稿の冒頭には〈爽やか!マリンコーデ☆〉など、インパクトのある言葉を入れ、軽く読めることを意識。インスタでは、首元や足元のアップなど、細かいアングルの写真を戦略的に投稿するという。また、商品紹介の動画配信を行う「ライブコマース」にも1年以内に挑戦し、さらにECにも力を注いでいくそうだ。
(日経トレンディ 寺村貴彰、写真 小西範和、岩田 慶(fort)))
[日経トレンディ2020年8月号の記事を再構成]
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