カラスがいない街は… 都市と離島、鳥類学から考える森林総合研究所 鳥獣生態研究室 川上和人(最終回)

ナショナルジオグラフィック日本版

川上和人さんは西之島の調査も続けている
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物の研究に迫る人気コラムです。今回は鳥の進化や生態系での役割などについて鳥類学者の川上和人さんが解説するシリーズを転載します。空を飛ぶ能力ゆえの「すごさ」「面白さ」にハッとさせられます。

◇  ◇  ◇

2013年、東京都西之島の南西海域で大きな噴火があり、2年間にわたって多量の溶岩をふき出した。やがて、西之島自体が溶岩に飲み込まれ、もともとの島の地面が残されたのはわずか0.01平方キロメートル、せいぜい1ヘクタールに満たなかった。当然、溶岩の下になったところに成立していたはずの生態系は壊滅した。残されたわずかばかりの地面も火山灰におおわれた。

西之島は、1973年に噴火した後の生物相の変化が注目されており、すでに鳥類相や植物相が調べられていた。そのような島で、いったん生態系がリセットされるほどの災害が起き、さらにその後の推移を観察できることになった。それゆえ、西之島は「絶滅と移入」が宿命である島の生態系について新たな知見をもたらしうるフィールドとして、世界の注目を浴びている。

さて、それでは、溶岩と火山灰に覆われた西之島では、どのように新しい生態系が始まろうとしているのだろうか。川上さんと話す前なら、ぼくは確実に、まず植物が生えてくるのではないかと思っただろう。そして、流木にくっついてきた昆虫なども定着して……というふうに生態系のメンバーが徐々に揃っていくイメージだ。

西之島。2016年5月20日撮影(出典:海上保安庁)

そのように言ったところ、川上さんの目がきらーんと光った。

「そうですね。そう思う人が多いと思います。でも、植物が育つためには土壌がないといけないですし、何より種子を持っていかないといけない。でも、海鳥はというと、海で食べ物を食べて陸で巣をつくるので、陸上に何も期待してないんですよね。大地さえあればいい。種類によっては、巣材すら必要なくて、何もないところにコロンって卵を産んじゃうのもいるので。そして自分で自発的に移動できるので、噴火から逃げても、落ち着けば戻ってくることもできる。そういうふうにやっていけるのは海鳥だけなので、彼らがいることによって、今後、生態系がどんどん変わっていくと思うんですよ。それを見ることで、本当に彼らが果たしている機能がクリアにわかると思います」

川上さんが調査隊の一員として、噴火後の西之島を訪れたのは、2016年10月だ。無人島、それも、噴火によりすべてが一掃されてしまった後に最初の一歩を踏み出すのはやはりドキドキすることだろう。無人島のロマンここに極まれり!

2016年10月に調査した時の西之島(写真提供:川上和人)

「不用意に外から植物の種子などを持ち込むと、島の新しい生物相に影響を与えかねないので、靴や服、調査器具などは原則としてすべて新品を使いました。それも殺虫剤で燻蒸した部屋でパッキングして島につくまで開封しなかったものです。僕たち人間が運んでいってもいけないので、1週間くらい前から果物を断って、腸内からも種子がなくなるようにしました。それで、例によってボートから泳いで上陸するんですけど、それには海水で体と荷物を洗う意味があるんです」

またもハードな探検隊的フィールドだ。

そして、それに見合うだけの成果を得た。

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