おしゃれして出かける場所がない著述家、湯山玲子さん

著述家、プロデューサー。東京都生まれ。「女装する女」「女ひとり寿司」など著作多数。クラシック音楽のイベント「爆クラ」を主宰。テレビのコメンテーターとしても活躍。
著述家、プロデューサー。東京都生まれ。「女装する女」「女ひとり寿司」など著作多数。クラシック音楽のイベント「爆クラ」を主宰。テレビのコメンテーターとしても活躍。

結婚して25年、もうすぐ50歳になります。両親を見送り子供は成長し、時間に余裕ができました。おしゃれをして外出しよう!と考えていましたが、出かける場所もありません。夫には「コロナ禍で都心に行くのは避けた方がいいから、電車に乗り隣の駅と折り返したら」と言われました。どうすればいいでしょう。(東京都・40代・女性)

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フワッとしていますが、ファッションに関する根源的な問題が潜んでいる質問ですね。見え隠れするのは「おしゃれとは他人の視線があってナンボの行為」という考え方ですが、まずそれは真実。社会的な動物である人間にとってファッションとは、個人の存在を証明し、表現し、時には防御するものなのです。

ちなみに両親の介護や子育ての最中、相談者氏はおしゃれをしなかった。関わる人たちは“なじみ”で、おしゃれをする意味がなかったからですね。パジャマ代わりのジャージでコンビニなどに行く人は少なくないですが、彼女らは「勝手知ったる店は、もはや家」という感覚。「我慢していた」という言葉からは、日本に根強い同調圧力の中で、母であり介護をする娘という役割に見合ったファッションをせざるを得なかった、という気分も想像できます。

しかしながら、おしゃれを「閉じた人間関係」の中のものにしてはあまりにももったいない。実は日本人のほとんどはそのレベル。名刺や学歴や夫の職業やらが、個人を“表現”していると思っているので、服を頑張る必要もなかったのです。ただ、組織依存から個人の時代に変化する今後、ファッションは個人を表す重要なファクターになることは間違いありません。

さて、おしゃれとは、美的センス、世間の空気と流行、見た目、自分自身という多角的な要素のバランスが要求される強力な視覚的言語。夫君が言う「電車で隣の駅まで乗って折り返せ」は、ある意味真実で、車中はもとよりちょっとした外出においても、他人が自分に向けるまなざしに敏感になりましょう。

おばさん1人がおしゃれなカフェに入ったときにありがちな「軽く軽蔑が入るか、無視に近い店員の視線」(本当です!)が、自分への興味と尊敬に変化する瞬間が、おしゃれの本格的な一歩です。

近い将来、就職活動や社会参加の機会が必ずやって来ます。そのときのためにも、「閉じた人間関係の中だけでなく、真の他人に感動すら与えるおしゃれ」を目指しましょう。ユニクロの黒の上下を、アクセサリーやスカーフ、靴でどこまで着こなせるかを今日から始めてみては?

[NIKKEIプラス1 2020年8月22日付]


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