中国で2Dアニメ制作に新しい波 日中タッグに再び火
中国アニメ映画『羅小黒(ロシャオヘイ)戦記』が2019年9月から日本でロングランを続け、6月中旬までの観客動員数は3万5000人以上にのぼった。Netflixでも5月から中国アニメ『シザー・セブン』シーズン2の配信が始まるなど、中国アニメへの注目が集まっている。
日本でも純中国産のアニメがより身近になりつつある今、中国のアニメ市場はどんな状況にあるのか。アニメに詳しいジャーナリストの数土直志氏によると、「これまでも中国は何度もアニメブームを経てきており、今はまた新しい波の黎明(れいめい)期にあたる」と話す。特徴的なのは、『羅小黒戦記』も『シザー・セブン』も、もともとはウェブアニメだということ。「新しい世代による"配信発"が今の潮流で、今後は、ウェブマンガがウェブアニメになり、映画化する流れが主流になる可能性はあります」(以下、数土氏)。
中国では従来『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(15年/日本公開は18年)や中国で歴代興行成績2位となる約50億元(約770億円)の大ヒットを記録したアニメ映画『ナタ~魔童降臨~(●●之魔童降世、前の●はくちへんに那、後の●はくちへんに託のつくり)』(19年)のような3DCGのアニメーションに定評があった。「その技術のクオリティーは高く、ハリウッドが恐れる存在になりつつあり、ピクサーやドリームワークスが本当に抜かれかねないと考えています」。しかし、そのなかで『羅小黒戦記』や『シザー・セブン』など最近話題の作品は、2Dアニメであることも特徴的だ。
近年の2Dの中国アニメの成長に、日本アニメが果たした役割は大きい。中国政府は、04年に国産アニメ育成のため海外作品のテレビ放映を規制し、08年には一部放映時間内での海外アニメの放送を禁止した。しかし実際には、動画配信サービスなどでの違法アップロードによって海外アニメが見られる状況だった。新海誠監督も、この時期"海賊版"で熱狂的な中国国内でのファンを増やした1人だ。
10~11年からは各動画配信サービスが海外アニメを正規に買い付け、コアなアニメファン以外の一般層も海外アニメに触れる機会が増えた。一方、日本側からすれば高額で取引できる中国は魅力的な市場となった。
その後、数年間は日中アニメの蜜月が続き、多くの合作が作られたが「うまくいった作品は数えるほど。ヒットしたのは、中国のウェブマンガを原作としてイマジニアとファンワークスなどが手掛けた『兄に付ける薬はない!』(17年。10月期に第4期が放送予定)くらいです」
18年には『君の名は。』など新海誠監督作品を手掛けるアニメ制作会社コミックス・ウェーブ・フィルムが、中国の大手アニメ制作会社・絵梦とオムニバス形式のアニメ映画『詩季織々』を共同制作した。日本ではアニメファンの間で話題になったものの、中国での成績は芳しいものではなかった。しかし『羅小黒戦記』を作った寒木春華スタジオなど、20~30代のクリエーターが中国で今、2Dアニメを手掛けている。日中合作で培われた制作力がここにつながっているのかもしれない。
一度は萎んでしまったかに見えたアニメ制作における日中のタッグにも再び火が付きつつある。今年に入って1月にアニプレックスが、2月にテレビ東京が、中国にアニメ制作の現地法人を成立した。「日本のマーケティングノウハウを取り入れて、中国原作の作品をアニメ化したいと各社が動き始めたのが今の状況。その成果があと数年後に出てくるのかなと思っています」
(日経エンタテインメント!8月号の記事を再構成 文/横田直子)
[日経MJ2020年8月21日付]
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