筋肉は「長くなるほど」柔軟性が増す

それでは、本題の「ストレッチを続けていけば、本当に誰でも体は柔らかくなる」というお話をしましょう。

柔軟性の高い筋肉というと、多くの人はゴムのように「ビヨーン」と伸びたり縮んだりするイメージを持つかもしれませんが、実はそうではありません。筋肉は「長くなるほど」柔軟性が上がるのです。

筋肉は、筋線維という細胞が束になることで、構成されています。そして、筋線維はサルコメア(筋節)がつながって形成されたものです。筋線維を鎖、サルコメアを鎖の一つ一つの輪とイメージすると、理解しやすいと思います。

そして、サルコメアを増やし、筋線維を長くすれば、筋肉の柔軟性は誰でも上がっていくのです。

では、サルコメアはどうすれば増えるのでしょうか? その代表的な方法がストレッチなのです。

ただし、サルコメアを増やすには正しい方法でストレッチを行う必要があります。ポイントは大きく分けて4つ。以下、一つずつ解説しましょう。

(1)2~3カ月間は毎日ストレッチを行う

毎日、ストレッチで、筋肉をグーッと引っ張り続けたとします。すると、「なぜ、毎日、こんなに筋肉を引っ張るんだ? 筋肉が切れてしまうじゃないか!」と、脳が反応し、体を守ろうとして、細胞分裂を起こし、サルコメアの数を増やします。

大事なのは、毎日、毎日、「早く筋肉を長くしてくれないと切れちゃうよ!」と信号を送り続けることです。1回だけ行っても脳は反応しませんし、週1回程度でも「あ、週1回のイベントね」と脳が判断し、サルコメアの数を増やそうとまではしてくれません。毎日、筋肉を伸ばし続けることで、約2~3カ月後にはサルコメアの数が増え、柔軟性の向上が実感できます。

(2)「イタ気持ちいい」強さで伸ばす

ストレッチは「イタ気持ちいい」強さで伸ばす。イタイと感じるほど強く伸ばすと、逆に筋肉が硬くなるので注意。(c)Sebastian Gauert-123RF

サルコメアを増やすためには、脳に「筋肉が切れそう!」と思わせることがポイントですから、「気持ちいい」と感じる程度の強度でストレッチを続けても、柔軟性の向上は期待できません。

一方、「イタイ」と感じるほど強く伸ばすのもNG。筋線維には筋肉の長さを察知するセンサー(筋紡錘)が備わっています。筋肉を切れる寸前まで伸ばすと、筋紡錘がそれを感知し、「このままだとヤバイので筋肉を収縮させなさい!」と脳に指令を出します。すると、サルコメアが増えるどころか、逆に筋肉が硬くなり、伸びなくなります。

効果的なストレッチの強度は「イタ気持ちいい」と感じる程度。伸ばしたときに、筋肉がプルプルと震えてきたら、それは強すぎるのだと覚えておきましょう。

(3)伸ばしたら「20~30秒キープ」を2~3セット繰り返す

ストレッチは1部位に対し、伸ばしてから20~30秒キープを2~3セット繰り返します。1~2分伸ばし続けるよりも、「いったん緩めて再び伸ばす」を繰り返すことが、ストレッチの効果をより上げていくコツです。

例えば立位体前屈を行った際、多くの方は1回目より2回目のほうが、柔軟性が上がっていると感じると思います。これは、サルコメアの数が増えたことが理由ではなく、筋肉を包む組織である「筋膜」による抵抗が弱くなるためです(残念ながらサルコメアは1回のストレッチで増えることはありません)。

筋膜は、一度引き伸ばされると緩むという性質があります。つまり、「伸ばして戻す」動作を繰り返すことで、どんどん筋膜が緩んでいくのです。すると、サルコメアを増やすために最適な強い刺激を、筋線維に与え続けることができます。

また、筋膜は体が冷えていると硬くなり、体温が上がると緩むのが特徴です。実は私たちトレーナーも、クライアントにストレッチを行う際、最初にマッサージとして筋肉を繰り返し押して温め、筋膜を緩めてから行います。ですから、運動の後やお風呂上がりにストレッチを行うようにすると、全身の筋膜が自然と緩むので、効果もアップしますよ。

(4)ストレッチは硬い筋肉を優先して行う

人はストレッチを行う際、もともと柔らかい筋肉ほど、一生懸命に伸ばそうとする傾向があります。やりやすい部位をつい優先してしまう気持ちは分かりますが、それでは柔らかいところはより柔らかく、硬い部分は硬いままになり、全身の柔軟性がアンバランスになる一方です。

ですから、ストレッチは硬い筋肉を優先して行いましょう。できれば一度、ストレッチやマッサージのサロン、ジムのトレーナーなどの専門家に、どこの筋肉が硬いのかをみてもらうといいでしょう。

このとき、部位ではなく「筋肉名」で教えてもらうことが大切です。「股関節が固い」「肩回りが固い」と言われても、その一つの部位にある筋肉はたくさんあります。股関節や肩回りの「どの筋肉か」を聞いて、その筋肉名を本やインターネットで調べ、具体的なストレッチ方法を探せばOKです。

◇   ◇   ◇

サルコメアは、年齢とともに数がどんどん減っていきます。それでも、毎日ストレッチを続ければ、何歳になっても柔軟性は向上することができます。継続は力なり。いつまでも快適に動ける体をキープしてください。

【中野さんからのアドバイス】
体が硬いのを解消するには…

▼ストレッチを毎日2~3カ月続ければ誰でも柔らかくなる
▼「イタ気持ちいい」強さで伸ばす
▼伸ばしたら「20~30秒キープ」を2~3セット繰り返す
▼ストレッチは硬い筋肉を優先して行う

(まとめ:長島恭子=フリーライター)

[日経Gooday2020年8月19日付記事を再構成]

中野ジェームズ修一さん
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんなど、多くのアスリートから絶大な支持を得る。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP)などベストセラー多数。

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