イヌは褒め言葉をどう理解する? 脳の最新研究で判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/9/7
ナショナルジオグラフィック日本版

1万年の間、人間のそばで進化してきたイヌたちは、私たちの情動を読み取る能力を持つようになった(PHOTOGRAPH BY MARK THIESSEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

「いい子だね!」と明るく高い声で言われると、イヌはうれしそうに尻尾を振るものだ。イヌを飼っている人なら誰でも知っている。

しかし、科学者たちは不思議に思った。褒め言葉を聞いたイヌの脳では、何が起こっているのだろう? ヒトの場合と同じように、音情報を階層的に処理しているのだろうか?

ヒトが称賛の言葉を耳にしたときにはまず、脳の原始的な部位である皮質下の聴覚野がイントネーション(抑揚や音調)に反応する。音声言語がもつ、感情面に働きかける力だ。その後、進化的により新しい大脳皮質の聴覚野が反応し、言葉の意味をとらえようとする。こちらは後天的な学習が必要なものだ。

ハンガリー、エトベシュ・ロラーンド大学の神経科学者アッティラ・アンディクス氏は、2016年の研究で、イヌの脳ではヒトと同じように言葉のイントネーションと意味とが別々に処理されていることを示した。ただ、謎はまだ残っていた。イヌの脳とヒトの脳は、情報を処理するのに同じような段階を踏んでいるのだろうか?

「イヌは言葉を持たないにも関わらず、私たちの言葉に正確に反応するのですから、これは重要な問いでした」と、アンディクス氏は話す。イヌの中にはたとえば、何千個もの物体の名を正しく理解し結びつけることのできる個体がいる。

そこで、アンディクス氏らはペットのイヌの脳活動をさらに調査、イヌの脳は私たちの脳と同じように話し言葉の音を階層的に処理していることを明らかにした。原始的な部位である皮質下で音声言語の情動的な部分を分析し、その後、新しい部位、すなわち大脳で言葉の意味を分析する。研究成果は20年8月3日付の「Scientific Reports」誌に掲載された。

この発見は私たち人間の言語がどのように進化してきたのかについての理解を深めてくれると、著者らは考えている。イヌとヒトの共通祖先がいたのは1億年ほど前だったことから考えると、「多くの哺乳類の脳が似たような形で音声に反応しているのではないかと考えられます」と、アンディクス氏は言う。

聞き上手のイヌたち

実験にはハンガリー、ブダペスト市近郊の12匹の飼い犬が参加した。ボーダーコリー6匹、ゴールデンレトリーバー5匹、そしてジャーマンシェパード1匹だ。イヌたちはまず、fMRI(機能的磁気共鳴画像)装置の中に自ら入り、静かに寝そべっているよう訓練された。実験では「賢いね」「よくできたね」など、イヌがすでに知っている褒め言葉に加え、「もし」や「それでも」など、未知の中立的な言葉をドッグトレーナーが発するのを聞かせた。

ナショジオメルマガ
注目記事
次のページ
人の情動を読み取るべく進化
ナショジオメルマガ