検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

新型コロナ 米医師が直面する「命の選択」の難しさ

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

「トリアージ」(治療の優先順位)という言葉は、フランス語の「trier(トリエ。選別するの意)」に由来する。この考え方が普及したのは18世紀末、フランス軍のナポレオン・ボナパルトがエジプトとシリアに侵攻し、多数の負傷者を出したことがきっかけだった。

フランス軍医のドミニク・ジャン・ラレーはこのとき、階級に関係なく、傷の重症度に応じて兵士を分類、治療するという方法を実践した。

それから200年以上がたった現在も、最も多くの人々に最善の治療を施すという、救急医療におけるトリアージの目的は変わっていない。しかし、米国各地で新型コロナウイルスが蔓延する中、医療従事者たちは、この原則をどう実践すべきなのかという問題に直面している。

米国政府のコロナウイルス対策本部は、18の州を「レッドゾーン(危険区域)」と位置付けており、これは1週間で人口10万人あたり100人以上の新規感染者が出たことを意味する。また、病院の集中治療室が定員の70%以上埋まっている州は14にのぼる。

こうした切迫した状況からは、いくつか重大な問題が発生する。十分なリソースがない場合、どのように患者を治療するのが最善なのか、トリアージの判断はだれが行うのかという問題だ。

命の天秤

トリアージとは基本的に、いくつかの結果を天秤にかけることだと語るのは、米エール大学ジャクソン国際問題研究所で災害対応を教えるナサニエル・レイモンド氏だ。トリアージの恐ろしいところは、その判断がゼロサムであること、つまり一方が利益を得れば、他方がその分だけ損失を被る仕組みであることだと、レイモンド氏は言う。

一方の患者を治療することは通常、もう一方を治療しないことを意味する。そのため、医療機関は緊急事態が発生する前に、どのようにして公平な判断を下すかについての方針をまとめ、そのガイドラインを医療提供者と一般市民の両方に対して、透明性を持って伝えることが重要となる。

今回のパンデミック(世界的な大流行)の最中、医療従事者がまず行ってきたのは、病院の収容能力を迅速に拡大することだ。たとえばミシガン州の医療機関である退役軍人アナーバー・ヘルスケアシステムでは、ウイルスの拡散を防ぐために、壁、配管、空調用ダクトを設置して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用の陰圧病棟を作った。

ただし、それで十分なわけではないと、肺疾患を担当する内科医ハリー・プレスコット氏は言う。現場を問題なく機能させるには、事前にトリアージ計画を精査、訓練しておく必要がある。これを怠れば、臨床現場の意思決定者が多大なストレスにさらされることになる。

ミシガン州でCOVID-19の症例が現れはじめた2020年3月、プレスコット氏は、希少なリソースを必要に応じて割り当てるトリアージチームの一員だった。チームは、人工呼吸器が足りなくなった場合などを想定し、模擬シナリオを演習した。幸いなことに、同院ではまだこれを実行する事態にはなっていない。

「患者の家族に対して、治療を提供できないと伝えなければならなくなったとしたら――その会話を想像することが、そもそもリソース不足に陥らないよう、事前にできる限りのことをしておこうという強いモチベーションになります」

前もって計画を立てることは、画期的な解決策につながることもある。COVID-19がニューヨークを襲ったとき、ボストンにあるマサチューセッツ総合病院の集中治療室の責任者キャシー・ヒバート氏は、非常に珍しいシステムの構築に携わった。

同院と地域の複数の病院とが協力し、各病院間で患者だけでなく人工呼吸器などのリソースも移動させられるようにしたのだ。おかげでボストンの感染者数がピークに達したとき、マサチューセッツ総合病院のICUでは、患者500人の治療に対応することができた。競合する病院間でこうした協力が行われることは極めてまれだ。

最悪の事態に備えて

2006年、全米救急医協会の医師たちは「SALT大量死傷者トリアージアルゴリズム」を開発した。このSALT法は、容態の深刻さに応じて患者を3つのカテゴリーに分け、各カテゴリーの患者に必要なものを評価したうえで、救命処置を行うというものだ。

偏向を避けるため、プレスコット氏の病院では、患者にスコアを与えて3つのカテゴリーのうちの一つに割り振るが、各カテゴリーの中で治療を受ける順番については、くじ引きによって決めることとした。トリアージチームは、規則をできる限り明確にして、「規則が公平に適用されたことが全員にわかるようにしました」と、プレスコット氏は言う。

しかし、たとえトリアージ計画が事前に整えられていたとしても、患者の中でだれを治療するのかを選ぶことは精神的な重圧となる。今回の長期にわたる危機の中では、すでに多くの医師たちが極度の消耗に見舞われている。パンデミックが始まる前からすでに、米国では看護師のほか、呼吸療法士、理学療法士、医師の不足が起こっていた。

「最も足りないリソースは物資ではなく、実際には人なのです」と語るのは、米ペンシルベニア大学の政治学教授、ジュリア・リンチ氏だ。

今春、リンチ氏は、全国のトリアージ指導書68件の調査を行ったが、その中で人員不足に言及していたのは37件だった。テキサス州、ミシガン州、ペンシルベニア州、マサチューセッツ州の医療専門家は、ナショナル ジオグラフィックの取材に対して、人員不足によって現在、医療提供の能力が制限されていると答えている。

「人工呼吸器を一台作る方が、ベテランのICU(集中治療室)看護師を一人調達するよりも簡単です」と、ミシガン大学看護学部の准教授、ディーナ・ケリー・コスタ氏は言う。「学位を取得するには2~4年かかりますし、仕事に慣れるためには最低でも半年の経験が必要です。決してすぐにできることではありません」

さらに悪いことに、何百人もの外国人医師が現在、トランプ政権によってビザを保留されていると言われている。COVID19-治療に関わる医師の入国を許可する例外措置があるにもかかわらずだ。「その影響を最も強く受けるのは、最もリソースの乏しい病院です。そうした病院では、医療サービスの行き届いていない地域に医師を派遣する際、ビザを持つ人々に頼っているためです」

命の重さをはかる

こうしたリソースの不平等は、患者の治療に直接的な影響を与える。米国でCOVID-19の症例が急増する中、「数十年間に及ぶ複合的な人種的格差が、脆弱性を助長している」ことを考慮しなければならないと、レイモンド氏は言う。

「私たちは常日頃から医療を割り当てていると認識することが、重要です。米国は基本的に、支払い能力に応じた医療の制限と割当を行っているのです」と、リンチ氏は言う。医療へのアクセスにおける長期的な格差が、パンデミックを悪化させていると、氏は考えている。なぜなら、定期的かつ適切な医療を受けられないことによって、多くの国民が、COVID-19の重症化リスクを伴う持病を抱えたまま放置されているからだ。

たとえばアリゾナ州では、トリアージの判断に際して、患者一人ひとりに対してスコアが与えられるが、その評価においては、1年および5年以内に死亡する可能性も考慮される。この判断は、定義上は人種や民族に関係なく行われるが、有色人種の人々は、平均余命を短くする心臓病などの疾患を抱えている可能性が高い。

こうした不平等に対処するうえで特に足りていないのが、連邦政府による協調的なリーダーシップだと、レイモンド氏は言う。氏が懸念するのは、トリアージの基準と相容れない行為だ。具体的には、実施数が限られるコロナ検査を、プロスポーツ選手に対して優先的に割り当てることなどがそれにあたる。

レイモンド氏は、透明性のある基準にのっとった、規則に基づいた全国的な制度があれば、すべての患者が公平に扱われ、富裕層やコネのある人たち以外にも、確実に治療が行われる可能性が高まると考えている。

米国が危機に見舞われている現在、普段からリソースの少ない環境で働く医師たちからは、貴重な教訓を得ることができると語るのは、非営利団体「国境なき医師団」で必須医薬品キャンペーンの執行副委員長を務めるシリア人医師、タマム・アロウダット氏だ。

「わたしが前回赴いたミッションは、ニジェール南部の小児病院で、ベッドは700床ありました。ほとんどの患者が重度の栄養不良かマラリアを患っており、死亡率は非常に高いものでした」と、アロウダット氏は言う。「現場の医師たちは、患者の状況や利用可能な医療に応じて、生き残る者とそうでない者とを分けることになる判断を下さなければなりません。それは極めて困難で、精神的に大きなダメージを負う作業です」

アロウダット氏は、病院の運営者は医師や地域社会と相談して、医療提供者が公平な判断を下すことができるようにすべきだと述べている。また、医療従事者たちは定期的に患者についての話し合いを持ち、集団としての意思決定を行うのがよい。集団としての見解があれば、たとえば需要の高い人工呼吸器を使用しつつも改善の見られないCOVID-19患者について、治療中止を判断する際の倫理的・精神的な負担を分散することができる。

アロウダット氏は、レイモンド氏が提唱する「規則に基づいたシステム」の重要性に同意しつつ、杓子定規になりすぎないことも大切だと強調する。厳格な規則は、進行中のパンデミックに適用された場合、過剰な制限となる場合がある。なぜなら、どの患者が悪化、あるいは改善するかは、常に明確にわかるわけではないからだ。「自分の患者については、現場の人間がいちばんよくわかっているものです」と、アロウダット氏は言う。

アロウダット氏が提唱するのは、公平かつ実用的なアプローチだ。たとえば氏が経験したこんな例がある。2015年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際、検査のキャパシティが不足するなかで、医師たちはどの患者を入院させるかを判断しなければならなかった。もしまだ罹患していない患者が入院すれば、確実に感染してしまうことになる。国境なき医師団が導き出した解決策は、新しい病棟を建設して、検査を待つ人々をコミュニティから隔離することだった。

「一世代前の医師たちは、米国内では、結果を天秤にかけるこうした作業を行う必要はありませんでした」と、アロウダット氏は言う。しかし現在は、あらゆる判断が代償を伴う。「リソース不足の環境においては、すべてのレベルの治療において、常に供給よりも需要の方が多くなります。選択は不可避なのです」

(文 LOIS PARSHLEY、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年7月29日付の記事を再構成]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_