医療ケアの子どもを育てながら働く 24時間介助を時短

2020/8/25
医療的ケア児を育てながら働く豊田美和子さん夫妻(東京都内)
医療的ケア児を育てながら働く豊田美和子さん夫妻(東京都内)

人工呼吸器やたんの吸引、胃ろうなどを要する「医療的ケア児」が近年、増えている。母親の多くはキャリアの継続を諦めざるを得ないのが現状だ。子の預け先がないなどの課題に対し、就労を支える取り組みも出てきた。

「起きたかな?」。豊田美和子さんは、東京都内の自宅で椅子にそっと近づいた。4歳の次女、理咲子さんは生まれつき脳に病気があり、24時間つきっきりでたんの吸引などの介助が必要だ。複数の児童発達支援施設に通わせつつ夫やヘルパーと交代で見守り、自身は看護師として働く。

2002年の大学卒業後、出版社に就職。長男、長女が誕生しても仕事は続けてきた。次女に病気があっても同様に考えていたが「医療的ケアがある子の育児と仕事の両立の難しさにがくぜんとした」。

地元で受け入れ可能な保育園はなく、施設には毎日は通えない。それでも働くことを諦めたくなかった。初産後、毎日自殺を考えたという「育児ノイローゼ」から立ち直れたのも仕事があったからだ。「社会に自分の役割があるのは大きいと感じている」。大学で看護を学び直し、今春から訪問看護のケアプロ(東京・中野)で時短勤務している。医療的ケア児を育てながらの共働きは「夫婦の分担、それぞれの会社の理解、外部サービスの活用が欠かせない」。

夫で会社員の康浩さんは時差通勤と時短勤務を使い、週1回は在宅で働く。「ウェブで完結する仕事が多く、不便は感じない」。勤め先のゼンリンは18年にダイバーシティ推進部を設置。19年にテレワークなどを導入した。

医療の進歩で助かる命が増え、医療的ケア児も多くなった。厚生労働省の調査では在宅の医療的ケア児(0~19歳)は18年に約2万人と、10年間で1.9倍に増加。全国医療的ケア児者支援協議会の森下倫朗さんは「保育や学校の受け皿が足りない」と指摘する。対応できる看護師の不在などが理由で保育園は受け入れない。児童発達支援施設など福祉サービスも不十分だ。

保育サービスのNPO法人フローレンス(東京・千代田)によると医療的ケア児を含む障害児の母親の常勤雇用率は5%。「社会人として築いたものを捨て、つきっきりになるのが実情」(森下さん)

20年1月開設の東京都港区立の元麻布保育園は医療的ケア児や障害児の専用クラスがある。加苅則子園長は「子を育てる親が働きたいという思いは実現されるべきだ。仕事は経済的な理由のためだけではなく、自己実現や社会貢献のためにもある」という。

脳性まひの3歳児を通わせる40代女性は産後に育休と介護休業を取得後、休職した。その後入園で復職がかない、従来通り、建築資材販売会社での経理を在宅でこなす。「社長や同僚も復帰を待ってくれていた。しっかり働きたい」。「表情が変わった」など子の成長ぶりを保育者から聞けるのも集団保育の利点だ。

「女性も普通に働く時代なのに理解は不十分」。医療的ケア児と家族を支える団体、ウイングスの本郷朋博代表は指摘する。3年前まで都内の中学で理科教師をしていた40代女性は休職が認められず、校長に退職を迫られ辞職した。「本当は続けたかった。違う管理職だったら分かってもらえたと思う」。いつかまた働きたいという。

医療的ケア児は入園・入学ができても体調の変化による呼び出しが多いほか、送迎などの負担も大きい。育児・介護休業法改正で21年1月からは子の看護休暇を1日の労働時間にかかわらず時間単位で取得できるようになるが、勤務時間の途中で取得できる「中抜け」も要るだろう。柔軟に働けるきめ細かな選択肢を、日本企業全体で増やしていくことが求められる。

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