Men's Fashion

「まず、いい物を」VAN出身父母の教え 鎌倉シャツ社長

リーダーが語る 仕事の装い

メーカーズシャツ鎌倉社長 貞末奈名子さん(上)

2020.8.20

上質な生地と手ごろな価格の絶妙なバランスに、米ニューヨークの金融マンも信頼を寄せるというメーカーズシャツ鎌倉。5月、創業者の貞末良雄会長の体調不良により、急きょ新社長になったのが、片腕として活躍してきた長女の貞末奈名子さんだ。就任直前に飛ばした大ヒットが「シャツ屋がつくるマスク」。コロナショックで店の休業を余儀なくされ、テレワークでシャツもネクタイも売れない八方ふさがりの状況を打開しようとひねり出した起死回生の策だった。「こんな時こそ、気持ちを明るくするような装いが大事」。子供の時から食事よりも服装を重視してきた父と母の教えが、自身の身なりや経営に色濃く影響しているという。(この記事の〈下〉は「服はサイズが命 『年齢相応のたたずまい』は上質から」




「布でいいんだ。早く、早く」 シャツ生地マスクが大ヒット

――コロナがビジネスウエアを直撃しました。どんな影響が出ましたか。

「全ての店を1カ月半休業しました。大手の企業が軒並みテレワークとなり、お客さまがステイホームで買い物に出かけなくなったので大変でした。ただ、ネット販売は伸びましたね。シャツは自分のサイズさえわかれば、まとめ買いをしやすい通販向きの商品です。テレワーク中とはいえ、ビジネス会議にTシャツというわけにはいかないという人が多く、伸縮性のあるイージーケアのニットシャツ、台襟付きできちんと見えるポロシャツ、リネンシャツなどが売れました。通常、ネット販売は全体の22~25%くらいですが、2020年は4割ほどになりそうです」

――シャツの生地で作ったマスクが大ヒットしました。

「4月17日の発売後6日間で45万枚が売れ、これまでに50万枚を販売しました。続いて投入した夏用マスクは10万枚の販売を予定しています。シャツが作れなくなるかもしれない、でも工場に仕事をしてもらわなければ、という危機感がマスク生産につながりました。綿素材でほかに作れるものを探そう、と社内に号令をかけるなかで、お客さまからマスクの要望はあったのですが、衛生用品だから無菌状態で作らないとだめではないのか、と企画担当者が難色を示していたのです」

「そこに(4月1日の)アベノマスク配布の報道があったんです。なんだ、布でもいいんだ、と。サンプルがあがってくると、シャツ屋がつくるマスクっぽくて面白い」

大ヒットした「シャツ屋がつくるマスク」の夏用。このほど創業者・貞末良雄会長のビジネスの軌跡を追った「シャツとダンス」(玉置美智子著、文芸春秋)が出版された

――一歩を踏み出せたのは「アベノマスク」のおかげであると。そこから2週間で完成させたスピード感がすごいです。

「アベノマスク配布前にやっちゃおう、早く早く、と頑張りました。最後にブランド名が入った小さなタグをどの位置につけるか皆で考えて、かわいいのができた!拍手!といった感じですぐに撮影、その日のうちに報道用リリースを作りました。でもスタッフは疑心暗鬼で、職人さんの中にはシャツ以外は縫いたくないという方もいました。だからこそ、もうかる数量を工場に出せたら頑張ってくれるに違いないと思いました。注文をとったらまさかの50万枚でした」