――シャープなどはマスクの予約注文が殺到してサーバーがダウンしました。よくさばき切れましたね。
「一日中サーバーを監視しながら上限を決めて『入場制限』をしたのです。バックオフィスの社員はデイトレーダーのようでした。工場は休みなしのスクランブル体制。まさに総力戦でした。父は、自分だったら決断できなかったかもしれない、と言っています。シャツ屋のマスクはどうも斬新すぎたみたいで、会う度に『ほんとうに売れるのか』と聞かれましたから」
「給料代わり」のおしゃれな服に囲まれて育った
――ご両親はともにヴァンヂャケット(VAN)の出身。当時のVANが業績不振で倒産する時期も経験されました。ご自身の服装についてはどんな影響を受けましたか。
「小さいときからVANの子供服ばかり。大人が見たらおしゃれだと思うネイビーやタータンチェックの服が多くて、髪も短くてよく男の子に間違えられました。キャラクターの付いたピンクの洋服などは憧れの存在で。絶対に着せてもらえませんでしたけど。一時はとても貧乏な生活になりましたが、着るものだけはいいものばかり。実際は給料代わりの現物支給だったのですが、母は周囲から『いつもひき肉や鶏肉を買っているのに、着るものは上等。食べるものを食べさせないで、洋服ばかり気を使っている』なんて陰口をたたかれていたみたいです」
――衣食住ではまさに衣が先。そこまで装いを重視したのはなぜだと思いますか。
「見た目より中身というけれど、見た目も大事なんだ、ということなのでしょう。ちゃんとしていないより、ちゃんとしていたほうが得することは多い、TPOに合わせてきちんとした格好をしなさい、とうるさく言われて育ちました」


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