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飛べるのになぜ離れない 鳥類学者、島で知った面白さ

森林総合研究所 鳥獣生態研究室 川上和人(4)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物の研究に迫る人気コラムです。今回は鳥の進化や生態系での役割などについて鳥類学者の川上和人さんが解説するシリーズを転載します。空を飛ぶ能力ゆえの「すごさ」「面白さ」にハッとさせられます。

◇  ◇  ◇

小笠原の島々で、海鳥が生態系のパーツとしてどのような機能を持ってきたのか。

川上さんの近年の研究のひとつの軸はそのあたりにあって、その成果が島の生態系保全に役立つ。そんな流れを見てきた。

でも、川上さんと話していると、なにかこういったまとめ方が一面的じゃないかと思うことしきりだ。飄々としてクールな語り口の中に、時々、研究がおもしろくてたまらないという熱がほとばしる瞬間がある。ぼくが感じた範囲では、そんな時の川上さんは、保全の基礎となる実学としての研究をはみ出して、単純に、この世界の背後にあることわりを理解したいという強い欲求にもとづいて語っている。それは魂の深いところから発露する情熱の形だ。

ということは、川上さんは、おそらく、子どもの頃から生き物好きで、野山を駆け回っていたのだろう。そのように思う人が多いだろうが、しかし、違う。そもそも、虫が嫌いだし、偶然、大学の生物サークルに入るまで、「鳥」もちゃんと見たことがなかった。こういったことは、ベストセラーになった抱腹絶倒の科学エッセー『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』に書かれているので、ここでは軽く触れるだけに留める。

ぼくが直接うかがった中で、印象深かったのは、川上さんが生物サークルでバードウォッチングをするようになった後から研究者になる過程で起きた変化だ。最初は「スタンプラリーをするように」「ポケモンカードを集めるみたいに」、見た鳥のリストを伸ばしていくことに楽しみを見出していた時期があったものの、その後、卒論のために絶滅危惧種メグロの研究を小笠原の母島で始めて以来、視野ががらりとかわったという話だ。

まずその経緯は──

「学部生時代は林学の学科だったんですが、生物サークルで鳥を見てきたことから、鳥についての卒論を書きたいと思って樋口広芳先生という鳥類の先生に相談しに行きました。すると『川上くん、小笠原でメグロの調査をしないか』って言うんです。メグロというのは、特別天然記念物にもなっている鳥で、小笠原で一番保全上の価値が高いとされていました。樋口先生自身が10年前に調査して、その後にどうなっているか調べる必要があったんです。僕は小笠原ってどこにあるのかも知らなかったんですけど、予算もあるっていうし、すぐに『行きます』と言って行きました。6カ月間、かすみ網でメグロを捕獲して足輪をつけて、放して観察して、卒論はかなり基礎的なデータを取るだけで終わってしまったんですが、修士でも研究を続けて、博士課程に入ったところで森林総研に入って今に至ります」

この時、川上さんが体験したのは、これまでやってきたバードウォッチングとは全く違う鳥の観察の仕方だった。

「メグロだけをひたすら何百時間、見続けるわけじゃないですか。単に見てるだけじゃなくて、いろんなことが気になってくるわけです。例えば、小笠原にはいろんな島がありますけど、そのうちにメグロが今いるのは3つだけなんです。飛べる鳥なのに、2キロとか3キロの海も越えずに、生まれた島にずっといる。じゃあ、なぜ遠くまで飛ばないようになったんだろうかって、進化について考えるようになって、あとは生態系の中で鳥って何の役に立ってるのかっていうのを考えるのも楽しくなってきました。鳥を守れとかよく言いますけど、実際に守りたいのは、実はひとつの種ではなくて、例えば生態系の中の多様性であったり、生態系の構造であったりとかするわけです。じゃあ、その種が絶滅したら一体何が起こるのかが、すごく重要になってくるんです。とすると、鳥って何の機能があるのか。鳥が絶滅したときに、一体何が起こるのか考えるが楽しくなっていきました」

川上さんが、進化への関心と生態系への関心を同時にいだき、研究室では骨の標本を作って、細かな骨の違いから進化の妙に思いをはせたり、過酷なフィールドに出かけては、生態系の中での鳥の機能を考えたりするのには、こんな経緯と背景があった。

なお、小笠原の元々の生態系を知るという意味では、非常に意義深い発見を学部生時代にすでに成し遂げているとのことで、それについても軽く触れておこう。

「調査1年目の時に、母島の石灰岩の鍾乳洞で、鳥の骨を掘り始めました。そこから出るのは、古いやつだと7000~8000年前なんですけども、新しいやつだと数百年前ぐらいのものまであります。まだ、人が定住する前にどんな鳥がいたか分かるんです」

これは興味津々だ。人がやってくる少し前の状況が分かれば、古い環境のリファレンスとしてとても役に立つだろう。ただし、これは川上さん自身、その後の研究の展開の中で非常に多忙になり、いまだ論文として公表できていないので、詳しいことはもうちょっと待たなければならない。

一方、川上さんが多くの時間を使い、また、情熱を傾け、研究の性質上、早めに論文にして報告しなければならないテーマというのは、たとえば、小笠原の無人島群の生態系だ。フィールドとしては過酷だが、川上さんは喜々として赴く。

「無人島ってロマンを感じませんか。もう、これ楽しくてたまらないです。最初は人が住んでいる母島で研究をはじめましたけど、そのうち興味本位で無人島にも自分で行くようになって、何十個もの島を訪ねていたら仕事にもなって、小笠原の中でのミクロなスケールからちょっとマクロなスケールまでとらえることができるようになってくるとどんどん面白くなってきたんです。僕は、鳥が好きというよりは、鳥の研究が好きです。なぜなら、鳥ってすごく特徴的な『飛べる』っていう性質を持っていて、それゆえに島間だって本当は飛べる。でも、飛ばなくなる。さらに、飛んで来たけれども定着できないとか、いろんなことが起こってるんです。その辺は多分、多くの人が興味を持っていただけることじゃないかと思うんです」

メグロは飛べるくせに島間移動をほとんどしないという話を聞いたけれど、それとは逆バージョンのこともある。たとえば、ウグイス。

「例えば父島の近くにある西島で、外来種のクマネズミの駆除が行われたんです。その島にはもともとウグイスが全然いなくて、なぜいないのか謎だったんですけど、ネズミを駆除した2年後に島がウグイスであふれてしまって。それまではいくら探してもいなかったんですけども、それ以来、ずっとそこでウグイスは繁殖を続けていて、あ、ネズミが食ってたんだっていうのがそれでわかったんです。実はたぶん定期的に移動してきていたんですよ。でも定着できない状態がずっと続いていたのがネズミを取り除くことで回復できた。これが、例えば飛べない動物であれば、そこに渡ってくるのに2年ではなくて100年かかったかもしれないし、200年かかったかもしれないんですが、鳥の応答はとても速いというのも魅力です」

なるほど、飛ぶ能力を持った鳥だからこそ、環境の変化にすばやく応答する。鳥が飛行能力をひっさげて地球上に登場してから、きっとこういうことが数多く起きてきたのだろう。

「島の生態系って、常に移入と絶滅を繰り返しながら今の状態になったというのが特徴です。すごい時間をかけた移入と絶滅もありますし、それこそ場合によっては数十年単位で起こっている移入と絶滅も多分あります。いったん絶滅しても、また近くの島から来て戻ったりもすることで、全体としては安定した状態にあるイメージです。たとえば、3つ島があって、同じ種の集団が3つあって、どこかひとつが絶滅してもおかしくないし、過去に何度も絶滅している、と。でも、1つが絶滅しても、ほかの2つに保険があるからまた戻ってくるみたいな話です。でも、そこに人間がやってきて、この島にはヤギが入ってダメ、こっちは人が住んでダメとかなると、保険がなくなって、絶滅が連鎖していってしまうというのがありうるので、それを起こしてはならないということなんですよ」

絶滅が起こっても移入が常に起きて全体としては集団が保たれる。そのためには、ローカルな絶滅をカバーする「保険」が必要だが、人間がかかわる環境の変化は、ローカルではなくなってしまうことが多々ある。つまり、絶滅の連鎖につながりかねない。それを防ぐためには、生態系の働き方をやはりしっかり見極める必要があり、鳥に着目するとその応答の速さから言っても理にかなっているのだ。

そして、今、川上さんの目の前に、ダイナミックな「絶滅と移入」の生態系を見せてくれる格好のフィールドが現れた。そのフィールド自体は、川上さんは1995年と2004年にすでに訪れており、その時点でも「絶滅と移入」というテーマにとって重要な調査地だった。それが現在、さらに重要度を増し、世界でも稀に見る生態学研究上のホットスポットの1つになっている。

島の名は、西之島。

父島の西約130キロメートルに位置する火山島だ。海底から見ると、実に4000メートルもの高さがある巨大な山塊で、頂上の噴火口付近のみが頭を出している格好だ。

1973年に有史以来初の噴火があり、川上さんが調査隊の1人として訪れた1995年と2004年は、噴火後の島の生態系の推移を調べる目的があった。

順当に行けば2014年前後にまた調査を行う手はずになっていたのだが、なんと2013年、記憶にも新しい大規模な噴火が起き、到底、調査ができる状況ではなくなった。

この時の噴火は結局2015年11月まで継続し、大量に吐き出された溶岩のせいで、0.3平方キロメートルに満たなかった島の面積は10倍近くに広がった。旧西之島由来の土地で現在残っているのはわずか0.01平方キロメートル以下だという。

そして、2016年8月、警戒区域の範囲が狭められ火口から500メートルよりも外での活動が可能になったため、東京大学地震研究所を中心にした調査隊が結成されて、川上さんもメンバーとして島へと上陸した。

「なにを最初に感じたかというと、海鳥の存在感です。火山灰の上でもうカツオドリが営巣した痕跡がありましたし、若鳥がいました。アオツラカツオドリはまさに営巣中でした。オナガミズナギドリの巣穴のまわりには、火山灰の下に封印されてしまっているはずの土壌が掘り起こされて散乱していて、そういった土壌を植物が利用していました」

火山が噴火してまだ2年そこそこの島で、まさに火山灰の上を、鳥たちは生活の場、繁殖の場にしていたのである。これは、実に興奮させられる。まったく生態系がリセットされた島で、はたして何が起きているのだろうか。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2018年3月に公開された記事を転載)

川上和人(かわかみ かずと)
1973年、大阪府生まれ。鳥類学者。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 鳥獣生態研究室 主任研究員。1996年、東京大学農学部林学科卒業。1999年に同大学農学生命科学研究科を中退し、森林総合研究所に入所。2007年から現職。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『そもそも島に進化あり』(技術評論社)『外来鳥ハンドブック』(文一総合出版)『美しい鳥 ヘンテコな鳥』(笠倉出版社)などの著書のほか、図鑑も多数監修している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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